【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
「…あ、麻生くん!」

悲鳴に似た声が私の喉を飛び出す。

「待ってたんだ。きっと来てくれるって思ってたから」

インターホン越しの彼の声は、いびつに歪んでいた。

「え…でも…」

土壇場になって私の心の中に迷いが生じていた。

明らかに逃げ腰になっている。

「まさか、ここまで来ておいて帰るだなんて言わないよね」

でも…。

これが最後のチャンス。

一歩この中に足を踏み入れてしまったら、彼の思う壺。

それでもその危険を承知で飛び込む勇気が今の私にあるのだろうか。
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