【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
「だからね、僕は母さんと決別しようと思ったんだ。僕が思い描く女性ではなくなってしまった母さんのことはもうあきらめようって。そんなとき、沢木さん、君が現れた」

今までのこと、すべて麻生君は知っていたのだ。

本当なら怒りがこみあげてくるはずなのだが、私の心を占めるのは恐怖だけだった。

「沢木さんは、何も知らないきれいな女の子で。君と恋をすれば、僕の汚れた血もきっと浄化できるって…。そう思ったんだ。普通に、ただ普通の恋愛をして、僕自身をリセットして。きっとこれが最後のチャンスだって…」

「リセット…?」

「ああ、そうだよ。僕はさ、僕の中には、あんなに嫌いだった父親とおんなじ欲望がぎらぎらと湧いて溢れてしまいそうなんだ。おかしいだろ。母さんが縛られて父親にひどいことされていたのをあんなに嫌だった僕が、おんなじことをしたくてたまらないだなんてさ。狂ってるよ、僕、狂ってるんだ…」

麻生君は髪の毛をかきむしりながら、よろよろと再び立ち上がる。

ああ、あの目だ。

私の首を絞めようとしたあのときと同じ目だ。


< 314 / 353 >

この作品をシェア

pagetop