【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
「あの…ここは」

「着いたよ」


男は華麗なドライビングテクニックでぴたりと車を停めて、私に笑いかけた…と思う。

けれど私は笑えない。

どんな顔をしたらよいか分からず戸惑っていると、彼がはっとした表情になった。

「あ、そうか。目よく見えないんだものね」

私は黙ったままうなずく。

「ここね、僕のマンションの地下駐車場」

やっぱり!

自分の家の近くにいることがわかり、少しだけほっとした。

遠くに連れ去られちゃったらどうしようもないもの。

「私、もう家に帰ります」

勇気を出してみた。

このまま歩いて家に帰りたい。

「それはだめだよ。僕のうちに行かなくちゃ」

「いやです」

「だめ。だってアヤちゃん覗き見したんだよ。その分くらいちゃんと返してもらわなくちゃ」


ちょ、ちょっと!

返すっていったい何を??

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