【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
「あ、あの…めがね返してください」

リビングのソファーに腰を下ろして、私はやっと声をあげた。

相変わらず視界がはっきりしない。

向かい合わせに座る彼の顔だっておぼろげだ。

「だめ」

くすくすと意地悪な笑い声をあげる彼。

「どうして?」

「だって逃げるかもしれないでしょ」

「そんなことしません」

とっさに口から嘘が流れ出た。

めがねだけ取り返せたら隙を見て逃げ出そうとも考えていた。

「本当に?」

彼は信じられないとでも言いたげに目を見開く。

「はい、本当です」


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