貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
「僕は新しい部署という環境で、1から何かをしてみたかった。だから移動を希望した、それだけだよ。そこに君とのことは一切関係無い。それに君は、事務スキルを買われての異動だっていうじゃないか。なのに部長から直接聞いた異動の理由を信じないで、どうして出所不明な人の噂なんかを信じるんだい?僕のこと以外にも、他に何か後ろめたいことでもしているから、そんな話を鵜呑みにしてしまうんじゃないのかい?」
「そ、それは……」

  事務スキルにはある程度の自信はあるが、その自信を上回るように、部内において人知れず二股三股当たり前の修羅場沙汰を繰り広げ、人の恨みを買う様なことをしてきたという心当たりもある。胸を張っての大抜擢だとは言い切れない、そんな後ろめたさを指摘されて、洋子は思わず言い淀む。
 
「それにね、知ってたかい?給湯室で話してる声って案外廊下まで漏れているものなんだよ。だからこの間ここで君が山本さんに話をした、色々な事……偶然通り掛かった誰かに聞かれたってことだって考えられるんだからね?」

 未だ話し声が聞こえてくる給湯室のドアを一瞥すると、神山透は「それじゃ悪いけど時間なんで、もういいかな?」と洋子の横を通り過ぎる。けれど、数歩進んだところで一瞬ピタリと立ち止まると、洋子の方へくるりと振り返った。

「それと……。部署も変わることだから、話しかけるのはこれきりにしてくれるよね?そしてもう二度と、僕と山本さんに近づかないでほしいんだ」

 そう言い捨てると、今度こそ神山透は洋子の顔を見ることもなく足早にエレベーターホールへと消えていくのだった。
 
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