貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
手に持ったスティックコーヒーを同僚に見立てて、力いっぱいグシャリと握りつぶしてやるも、そんなことではこのモヤモヤ感がおさまる訳でもなく。
給湯室に入ることもできず、そのまま話を立ち聞きすることになってしまったけれど、このままコーヒーを入れずにスゴスゴ部屋に戻るものなんだか癪に障る。

――おぬしら早く立ち去れい!!さもなくば仲間内にしか聞かれたくないであろうその会話をぶった切って中に入ってやるぞ!!――

ドス黒いオーラを放ち強く相手に念じてみるも、効果虚しく会話は続く。

「あんないい体してるのにね~見た目だけかぁ、なんかガッカリ」
「でも夜以外は理想的なんだし我慢すればいいんじゃないの?どこかでつまみ食いしちゃうとか!」
「えー。じゃあつまみ食いしちゃう?今度外資系の人と合コンするからその時がチャンスかなぁ?」
「あんたこの間もそんなこと言って合コン行ってたじゃん!この間帰りに一緒に消えた人とはその後どうなったのよ?」
「やだぁ、それはひみつぅ」
「あーあ。洋子にこんなボロクソ言われてるとも知らず、社内で爽やかな顔してバリバリ仕事をこなす神山さんがほんと不憫!!!」
「なによぉー、人ぎきの悪い!あんただって人のこと言えないでしょー?」

……魔だ。ここに魔窟がある。

いよいよ聞いては行けないものを聞いてしまった気になり、コーヒーを入れに給湯室に乱入する気もなくなった。
と、いうか紺野洋子の彼氏って営業部のエース・神山透だったのか。
高身長、高学歴、仕事ができて、体のラインもシュっとして、社会人あるあるの「仕事が忙しくて身体のメンテまで手がまわりませーん」的な筋肉が落ちてタルっとしてるなんてこともない。
一度仕事の打ち合わせで隣に座った時の横顔を思い返せば、まつげがフッサフッサで鼻が高くて、眩しいくらいのイケメンぷり。その上性格も穏やかで人当たりが良いときたものだから、陰では「王子」となんて称賛されているその存在。
なるほど、ありゃ確かにハイスペック。まさしく社内最優良物件だわ。いやあ洋子さん、お目が高い。

一人うんうん納得していると、後方でバサリと何かが落ちる音がする。
振り返ってみれば視界に入ったのはパリッとスーツを着こなした見目麗しき男性と床に投げ出された紙袋。

そう。
話題の人物、神山透が呆然とした表情で佇んでいたのだった。

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