貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
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神山透の自宅の最寄り駅に降りたつと、近くの洋菓子店に寄り道してよいかと聞いてみた。

「甘い物が食べたかったんですか?」

さっきのカフェで気づいてあげられなかったと、神山透は呟くので、そうではないと急いで次の言葉を言い添える。

「いやあ。突然の訪問とは言え、手土産も持たずにご自宅にお伺いするのはどうも気が引けて」

するとイケメン、なるほどと言った表情でこちらを見つめ、「そういうところ、山本さんらしいですよね」と、フフッと笑うと、茶目っ気たっぷりな声で耳打ちをする。

「まあでも、自宅にいるのは僕だけなんですけどね」

うん、まあ、わかってるー。
でもなんとなく、何も持たずに伺うのもねえ?
色とりどりのケーキが並んだ冷ケースを前にするとどれにしようか迷ってしまうが、結局悩んだ末にシュークリームを2つ買ったのだった。

神山透の自宅は、郊外の3LDKのマンションであった。郊外とは言えこの年代の会社員が住めるレベルの部屋でないと驚くと、神山透いわく「海外へ長期出張している叔父の留守番係として住まわせてもらっている」とのことだった。
と、いうことは家賃ゼロ!!羨ましい限りである。

広いリビングには壁一面に作り付けの本棚があり、神山透のものだという沢山の蔵書が並んでいる。
そのジャンルは様々で、経済関係の本、四季報やら、株取引の解説本、有名投資家の自伝的ハウツー本、銘柄株の解析……なんだか株に関する本が多いな。
……まあとにかく、仕事に関連したと思しきものがズラリと並ぶ。
ガチガチのお固いものしか読まないのと思いきや、一方ではファッション雑誌、娯楽小説、流行りの少年漫画なんかの書籍も見受けられる。
その硬軟併せたジャンルの豊富さに、神山透の性格が垣間見えるような気もしてきて、それがなんとも興味深い。
漫画ばかりの自分の本棚と思わず比較し、もう少し私も仕事に関係した書籍も読むべきかしらと一人反省なんかもしてみたり。

そういえばAVは嗜まないと言い張る神山透だが、だったら男子の部屋あるあるのアレはあったりするのかしら。
引き続きキョロキョロ本棚を興味深く眺めていると、神山透から声が掛かる。

「何かありました?」
「あ、いえ。成人雑誌なんかもこの中に入っているのかな?と思いまして」

思わず素直にそんなことを口にすると、イケメンは呆れたような顔をする。

「そんな雑誌はありませんし、あったとしてもリビングになんて置きませんから」

そんな事を言いながらもそれ以上本棚の中身を詮索されまいとする様に私をソファに誘導すると、目の前のテレビをパチリとつける。

「まあ、取り敢えずテレビでも見てお寛ぎくださいな」

恭しくも執事さながら頭を下げて勧めると、自身はキッチンへと向かって行くのだった。

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