貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
さて、給湯室の前で別れてからそれほど時間は経っていないはずだったのだが、エントランスには既に神山透が立っていた。
相手を待たせないこの気遣い。営業の鏡!!
こういうところもスパダリと称させるところなんだろうなーとぼんやり思いながら彼の後について会社を出るも、イケメンは数歩歩くとくるりとこちらに振り返る。

「誘っておいてなんですが、今日のお店どうしましょう?ちょっと僕、今頭が混乱していてどこが良いのかわからなくて……」

そして社内でみかけるいつもの自信溢れるキラキラとした表情とは程遠い、迷子の子犬ちゃんみたいに途方に暮れたような顔をみせるのだった。

そのギャップたるや!!
首を傾げてこちらを申し訳なさそうに見つめてくる様子は、不謹慎だがなんというか、目の保養。

うわー。かーわーいーいー。

実家の飼い犬を連想して、ヨーシヨシヨシと頭を撫でくりたくなる気持ちになるが、いかんいかん!ぐっと堪える私である。

ああそうか、そうだよねー。
愛しい彼女に会いにきたら、出会い頭にきっついカウンター食らったようなもんだもんね。
わかる、わかるよ!と一人納得した私は、「じゃあお店は私が決めていいですか?」と言って、冒頭の大衆居酒屋に足を運ぶのだった。

神山透は口数少なく、背中も少々哀愁を帯びているように見えるものだから、こちらもなんだか気を使ってしまう。
仕方がないので天気の話から通勤ルートから見える噴水の綺麗な公園の話、近所で見つけた大振りの木蓮の花が咲いた話まで、思いつくありとあらゆる雑談を一方的にべらべら喋り倒し、店につく頃には猛烈に喉がビールを求めているのであった。

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