私だけに甘いあなたと恋をする
「好きな奴、居るだろ」


「は?」


トマトをスライスする手を止め兄貴を見る。

笑顔も何もない、突き刺すような眼差し。

怖いもの知らずの俺が唯一苦手なのが、人の心の奥を見透かすような兄貴のこの眼差しだ。


「……好きな奴…」


『好きな奴』の定義が分からない。


まゆりはハムスターみたいで。

俺のお袋や兄貴の近くに居る派手な奴らみたいに『女』じゃなくて。


「好きとかよく分かんねー」


「俺もあんま分かんねーからちゃんとしたこと言えねーけど…。こっち向いてほしいとか触れたいとか…そーゆーことじゃねーの」


「触れたい…」


まゆりのぷっくりとした柔らかな唇を思い出す。
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