私だけに甘いあなたと恋をする
「まっ…真鍋くん…」


「何?」


呼んでも振り返ってくれない。

だけど歩くスピードは、私に合わせてくれてるのかゆっくりだ。


「一人で歩けるよ?」


手首を外そうと(こころ)みたけど、びくともしなくて。

男の子の力って、やっぱり強いんだな。


「途中で倒れたら心配だから離さない」


……。


大丈夫だよ、とは言えなかった。

静かな廊下。

たまに鳴る上履きのキュッという音がやたら大きく聞こえる。


「……ありがと」


「ん」


その言葉以外、保健室に着くまでやり取りすることはなかった。
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