タイムスリップ・キス
せめて私がクッションになればいいんじゃないか…


なんて思う暇もなかった。

本当はただどうにかしなきゃって飛び出しただけ。

落ちてくる小西先輩を助けたい一心で、気付けば体が動いていた。


思えば無茶なことだった。


「大丈夫!?」


伊織先輩の声がする。

でも体が痛くて動けない。

強くコンクリートの地面に打ち付けられたせいで声も出せない。

私の胸の中に収まった小西先輩を抱えたまま、踏みとどまることは出来なくて勢いのまま後ろに倒れたてしまった。

「晴ちゃん!」

伊織先輩が私の名前を呼んでいる。

返事しなきゃ、私は大丈夫だって。


でもそれより…っ

小西先輩は!?

小西先輩はどうなったの?

私ちゃんと助けられた…?


そろりと目を開ける。

「晴ちゃん…っ!」

「伊織先輩…」

涙ぐんだ伊織先輩が私を見ていた。

それと空も見える。

あ、また私この状態。

地面に仰向けのまま、必死に心の中で探していた。



お願い無事で…!



「大丈夫?」

ひょこっと私の視界に表れた。

「小西先輩…っ」

目が合った。

心配そうに私を見ていた。



小西先輩…!



生きてた…


生きてる…!


助けられたんだ…!


瞳が熱くなる。


両手で顔を覆った。


涙が溢れてくる。


よかった、ちゃんと、私出来たよ…っ



山田、私ちゃんと出来た…!!!



「ねぇ君も!大丈夫!?」


君?

誰?


伊織先輩が視線を私から、その後ろの方へずらした。


え、私の後ろに誰かいるの…?


「…ぃば、早くどけよっ」

「え?」

この聞き慣れ過ぎた声。

そーいえば痛いなって思ったけど、衝撃はあまりなくて思ってたより平気だった。

受け止めた小西先輩ごと後ろに倒れはずだったのに、それこそまるでクッション…


「山田っ!!??」


びっくりして起き上がった。

「…っ」 
 
「晴ちゃんっ」

それはさすがに痛かった。

言っても階段から落ちてくる自分と体重変わらない(いや、軽いかもしれない)人を受け止めて倒れ込んだ後、急に動いたら電流のように衝撃波が流れた。

…でもっ

「山田…、無茶しないでよっ」

私の背中を抱きとめるように山田が受け止めてくれていた。

「それはこっちのセリフだよ、あんなとこ思いきり飛び込んで行くんじゃねぇーよ」

瞳からポロポロと流れた。 


溢れて、溢れて…

止まらない。



山田が無事じゃなかったら意味ないんだよ。 


山田がいなかったら私…っ。



へたんっと座って、下を向きながら涙を流す私に山田が手を伸ばした。

「椎葉が無事でよかったよ」 

“晴が無事でよかったよ”

ぽんっと頭を撫でて。

その言葉とその手の温かさにまた涙が溢れた。
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