タイムスリップ・キス
「大丈夫?えっとー…」

「あぁー、…山田です。椎葉と同じ、クラスの…」

「山田くん、怪我は?どこか痛む場所とかない?」

ゆっくりと山田が体を起こした。

にこっと微笑みを返して…

私と小西先輩の衝撃を受け止めたんだ、大丈夫なはずないのに。

「はい、幸い体丈夫なんで」

無理矢理に笑って見せていた。

「晴ちゃんは!?晴ちゃんは大丈夫!?」

まだ座ったままで動けない私の前に伊織先輩がしゃがんで、のぞき込むように私の顔を見た。

「私は…、私も大丈夫です!全然これっぽちも!」

だから私も笑って見せようと思った。

「そんなわけないでしょ!あんな無茶なこと…っ、心配するよ!!」

伊織先輩に似つかわしくない怒号が響く。

初めて聞いた、そんな感情的な声。

目を丸くして驚いた。

「…晴ちゃんに何かあったら!僕…嫌だよっ」

伊織先輩の瞳に今にもこぼれそうな涙が溜まっていた。


それは私を想ってくれての涙だ。


「…僕だけ何も出来なくて、ごめんね」 

ぽろっとこぼれた。

透き通った涙が伊織先輩の頬を伝う。

「晴ちゃんありがとう、優月を助けてくれて」

私間違わなくてよかった。

また伊織先輩を悲しませるところだった。


私のことも、想っててくれたんですね。


「山田くんも、ありがとう」

過去(ここ)に帰って来ることが出来てよかった。

「椎葉さん、本当にありがとう」

「小西先輩…」

伊織先輩の隣に小西先輩がしゃがんだ。

小西先輩の手を取って、両手でぎゅっと握った。

「小西先輩…っ」

「え?」

「絶対…っ、絶対この先もずっと…伊織先輩のこと離さないでくださいね!!」


伊織先輩にはずっと笑っててほしい。

やっぱり笑ってる伊織先輩が一番好きだから。


その隣で一緒に笑っていたかったけど、私では叶えることが出来なかった。


伊織先輩が1番幸せに笑っていられるためには小西先輩じゃなきゃダメなんだよ。


小西先輩が笑っていたら、きっと伊織先輩も…


「晴ちゃん…」

ふふっと小西先輩から声が漏れた。

「伊織くんがいなくて困るのは私の方だよ」

「優月っ」

照れた伊織先輩の顔は可愛くて、そんな顔も初めて見た。 


好きなんだね。

すっごく。

お互いに。


「幸せでいてくださいね」

そんな2人を見ていたら私も、笑顔になれたよ。
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