タイムスリップ・キス
「好きなのっ」



過去(こっち)の山田はどんな顔するのかなって思ってた。

これ以上ないくらい顔赤らめちゃったり、びっくりして声を出すのも忘れちゃったり、しちゃうのかなって。

ドキドキする胸を押さえながら山田の方を見た。


「…は?」


半開きの瞳で私を見ていた。


え、思ってたのと全然違う!


「やっぱ伊織先輩たち別れさせる話じゃねぇーか」

吐き捨てるように言い放たれたその言葉に私の方がうろたえてしまった。


待って、これはもしや全然伝わってない…!?


「やめとけ、やめとけ、そんなこと!どーせ最後に泣くのは椎葉なんだから、さっさと諦めろよ!」

呆れた表情で右手をヒラヒラさせた。

はぁーあって大きなタメ息までついて、今のが告白だって毛頭ない感じ。


好きな子からの告白は何度だって嬉しいって言ってたじゃん!山田の嘘つき!


私的には結構がんばったつもりだったんだけど。


…じゃあ、まぁいいや。

いいよ、それでも。


「泣かないよ、相手は伊織先輩じゃないし!」

「はぁ?伊織先輩以外にもそんな奴いたのかよ!」

机に置いてあったスクールバッグを手に持って、肩に掛けた。

山田に背を向けドアの方に歩き出す。

「気付いちゃったの、本当は伊織先輩より好きだったって…」

「へぇ、どんな奴だよ?」

「優しくて、いつも私のこと考えてくれて、いつでも味方でいてくれる…」

「ふーん、そんな椎葉のこと想ってる奴なんているんだ」

足を止めた。

ぼそっと小声で呟いた。


「…ずっとそうだったんだよね」


きっと山田には聞こえなかったと思う。

それぐらいの声で呟いたから。

「じゃあまたフラれた時には慰めてやるよ、それが俺の役目だろ」

「そんなの必要ないし!」

くるっと振り返った。



「だって両想いだもん」



山田の瞳を、真っ直ぐ見つめて。 


瞬きさえも惜しいくらいに。


伝わってくれないかな。  


私の気持ち。



山田のことが好きだよ。



「………え?」

「ばいばい!」

もう一度背を向け歩き出した。

「椎葉!今のなんだよ!?おい、今のって、なぁ!?」


いいんだ、次は絶対諦めないから。




5年後もう一度、会いたいから。
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