タイムスリップ・キス
Time3.山田と始まる同棲生活)
「うん、まぁ言いたいことはわかった。再婚した両親に子供が出来たから居づらくて家飛び出しちゃったってことね」

よくもまぁテキトーなことが言えたな自分と思った。

最近見たドラマの内容をつらつらと並べてみたら案外山田(大人)が納得しちゃって、うんうんって私の前で腕を組んで頷いてるんだもの。

5年前のドラマだもんね、山田が見てたとしても覚えてないか。

「…気まずい気持ちはわからないでもないけど、家出ってのはなぁ~」

すっかり日が暮れて真っ暗だった。

山田が自販機で買ってくれたあったいお茶を飲みながら、トイレの前に設置された灯かりの下で即興で作った家庭事情を話していた。

「それで、どうするの?」

「え!?」

「これから、行くあてあるの?」

「………。」

ここまで話したはいいけど、そのあとは考えてない。お金もないし、漫喫にもネカフェにも行けなかった。

「…じゃあ俺ん家来る?」

「え、いいんですか!?」

「全然よくはないけど、女子高生連れて帰るなんて俺犯罪だからね」

山田が着ていた上着を脱いで急に黙った私の肩にかけてくれた。

「でもここで放っておくのもあれだし、友達ん家泊まるってことにでもしといて家族に連絡するなら…いいよ」

はぁっと息を吐いて、ポリポリと人差し指で頭を掻いた。

それは行く当てのない私の救世主のようで、すぐに返事をした。

「する!しますっ!」

この全くついていけない状況に、ちょっとだけ気分が明るくなった。

暗い学校で野宿するよりよっぽどマシだもん。

思わぬ展開で山田の家にお邪魔させてもらえることになった。

「わかった、いいよ」

にこっと笑った。

大人の山田はそんな風に笑うんだ、そう思った。

それはなんだかこそばゆい。

「じゃあ、名前は?俺は山田瞬、見た通り水道工事の仕事してる。一応、怪しい者じゃないよ」

「私は…」

椎葉晴、…でもなんとなくそれは言えなかった。

「椎名夏、です!こ、高校1年生です!」

我ながらセンスのカケラもない名前だなと思ったけど…、まぁいいや!

今この瞬間から未来(こっち)の世界ではそう名乗ろう!

「夏ね!よろしく!」

「よろしくお願いしますっ」

ぽんと私の頭を撫でた。

「じゃあ帰るか」

山田に慣れないことをされたせいか顔が熱くなった。

そんな大きな手のひらしてたんだ…。

「その前に1回会社戻らないといけないから、家帰るのはそのあとな」

「…な、んでも大丈夫ですっ」

不自然にどもっちゃうぐらいに。
< 12 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop