タイムスリップ・キス
1人暮らしをしてるという山田の家はお風呂やトイレはあるけど部屋は一つしかないアパートで、ベッドはあるけどテレビはなくてその代わり漫画が何冊か本棚に並べられていた。

ほとんど“筋肉番長”だったけど。

そーいえば好きって言ってたな…、まだ出たばっかりって言ってたのにここには20巻まで並べてある。

やっぱりここは未来なんだ。

「夏、チャーハン出来たけど食うだろ?」

「あ、はい!ありがとうございます…っ」

1人用の小さな丸いローテーブルを2人で囲う。

こんな狭い空間で2人って、カラオケとはまた違う空間になんだか緊張して来た。

「悪いな、絨毯(じゅうたん)とかないからフローリングまんまで」

「いえ、全然っ」

「その辺にあるクッション使って」

近くにあったクッションを借りてお尻の下に敷いた。
ヒーターは入れてくれたけど、フローリングの床は冷たくて何か欲しいと思っていたからクッションはちょうどよかった。

「なんにも荷物ないんだよな?」

「あ、はい…勢いで出て来ちゃったんで」

「勢いありすぎだろ、財布もなければ制服のままって」

本当勢いのままこっちに来ちゃったと自分でも思ってる。

まさか勢いでここまで来れるとも思ってなかったし。

「貸してやれる服はー…なくもないけど俺のだからなぁ、サイズ合わないよな」

「あの、お構いなく…」

「あ、“あいつ”のがあるか」

あいつ?

気になったけど聞くのはやめておいた。
あんまり聞いちゃいけないワードっぽかったから、女の勘ってやつで。

あと意外にも山田は料理が上手かった。
チャーハンすっごくおいしい。

「夏、明日学校は?」

「えっ」

「明日金曜日じゃん」

「あー、ですよねー…」

「俺仕事で出ていくのは早いし帰って来るのも夏より遅くなると思うから」

………。

え、それだけ?

なんか普通に一緒に暮らし始めるノリだけどいいの?

絶対怪しい高校生に山田はそれ以上聞いて来なかった。

「あ、夏”筋肉番長”知ってる?読まない?」

「…ムキムキしか出て来ない漫画読まないです」

5年前に聞かれたことに5年間の言葉そのままで返した。
私にとっては昨日のことだけど。
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