タイムスリップ・キス
「晴…っ!」

どこからか声が聞こえた。

この声は知ってる、ずっと聞いてた声だったから。

「どこ行ってたんだよ!探しただろ!」

「山田、さん…っ」

いつも穏やかに喋っていた未来(こっち)の山田とは思えない血相を変えた表情で怒鳴る声が公園に響いた。

「携帯置いてくし、こんな夜中に出てってんじゃねぇーよ!心配するだろーがっ!」

ハァハァと肩で息をし、コートを羽織っているとは言え真冬なのに額からは汗が流れていた。

たぶん、それほど私のことを探してくれてたんだと思う。

「見つかってよかった~…」

はぁ~っと長く息を吐いて、そのまま私の前にしゃがみ込んだ。頭をぐしゃぐしゃぐしゃと大げさに掻いて、俯きながら未だ乱れている呼吸で肩を上下に揺らしていた。

「1人で突っ走るな!昔から晴はそうだったけどっ」

まだ続くかと思ったお説教じみた話、そんな話よりも第一声から気になってたことがある。

そこはどうしても流すことはできなくて。

「待って山田!」

私だってつい、いつも通りに呼んでしまった。

「さっきも思ったけど、なんで私の名前!私そんな風に名乗って…っ」

「あ、今は“夏”なんだっけ?いや、もうどっちでもいいだろこの際!」

「よくない!よくないよ!!」

これはなんだか懐かしい。

あの頃の山田みたい。

高校生だった山田と話してるみたい。

「なんで知ってるの…?」

山田が私の方を見た。

目が合った、山田と。

ふぅっと静かに息を吸って、丁寧に話し出した。

「最初からわかってたよ」

「え…?」

「学校で声をかけた時、びっくりした。高校生の頃の椎葉晴そのまんまだったから」
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