タイムスリップ・キス
高校生の私を覚えていたんだ…

確かに制服姿だし、ここへ来る直前まで山田とは一緒にいたけど、全部わかっていたなんて。

山田がズボンのポケットから私のスマホを取り出した。

「それとこれ、今時こんな古い携帯持ってる女子高生珍しいと思ったし」

渡されたスマホを受け取った。

私にとっては最新機種の1番いいやつ、値段だって結構したのに。

「俺とおんなじだから」

逆のズボンのポケットからもう一つスマホを取り出した。

色違いの同じ機種だった。

「俺もマネして買ったんだよなー、もう5年前のだけどまだ使えるし替えるタイミングなくて」

いつもより優しく聞こえた山田の声に、きゅっと瞳が熱くなった。

その瞬間、止まったはずの涙がまたぽろぽろと流れ始めた。

これが何の涙かわからない。

でもね、山田の笑った顔見たら涙が止まらなかったの。

「帰るぞ」

微笑んだ山田の柔らかい声。

差し伸べてくれた大きな手。

うんって小さく頷いた。

未来(こっち)にも私に帰る場所はあったんだ。

手を引かれて歩く。

初めて山田と手を繋いだ。

変なの、こんなこと過去(あっち)の世界でもしたことないのに。

こんなあったかい手をしてるなんて知らなかった。

今目の前にいるのは私の知らない山田だ。

少し大人になった、見慣れない山田。

だけど、山田がいてよかったって思っちゃった。


山田がいてくれて、よかった私…。
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