タイムスリップ・キス
—ピンポーン


トーストを食べ終えたところでチャイムが鳴った。

こんな朝から誰だろう、と思っている私をよそにあたりまえのように山田はドアを開けた。
誰かも確認せずに、まるで約束してたみたいに。

「瞬、おはよう。もう起きてた?」

お、女の人の声…!!?

それにはびっくりして飲んでいたホットミルクが逆流してくるかと思った。

蘇る“あいつ”ってやつ。

聞かないようにしてたけどそんなの1つしか思いつかない。

5年も経ってるんだ、そりゃ山田にそんな人がいたっておかしくない。

だけど口に出すのはなんとなく気まずくて言えないままだった。

突っ込みたくなかった。


だってそんなの彼女しかありえない。


それともう1つ気になることがあった。

あの夜公園で私を見付けた時、あたりまえのように“晴”と呼んだ。

あまりにもナチュラルすぎてそれから突っ込み忘れてしまうほど自然で、今だってそう呼んでいる。

高校生の山田は私のことを“椎葉”って呼ぶのに。

「入れよ」

「うん、お邪魔します」

え、入れちゃうの?
私いるのにいいの!?
なんか変な感じになったりしない!?

なんだかわからない緊張感に包まれる。

マグカップを置いて姿勢を正した。

一体どんな人なんだろう、山田の彼女って…

どんな人が好きだったのかな…?


「「!」」


入って来るや否や、パチッと視線を交わした瞬間、相手と同じ顔をしてしまった。


「「私じゃん!!!」」


声まで同じだった。

瞬時に全てを理解する。

まさか5年後の私にここで会うことになるなんて…!

てゆーか…っ

「私全然変わってない!!!」

「当たり前でしょ、元はあんたなんだから」

ちょっと化粧を覚えたぐらいで特に変わってなかった。

ショックだ、私の予定ではもっと可愛くてキレイになってるかと思ったのに…

「はぁ…、なるほど。過去から来たのね、高校生の頃の椎葉晴」

5年後の私が大きくタメ息をついた。

そっか過去にタイムスリップしたことある張本人、何も説明しなくても伝わるんだ!

そして何より聞きたいことがあって前のめりで訊ねた。

「私の家、なかった…!まっさらで何にもなかった!なのになんでここにいるの!?」

何もない空っぽの家を見た時大きな絶望があって、もしかして未来(こっち)の世界に私はもう…

そんな風に思ってた。

「そんなの…」

だからきっとそこに大きな意味があるんだって、私が未来へやって来た意味がここに…!

ゴクリと息を飲む。

未来の私の口元をしっかり見つめて。

「引っ越したからよ」

髪を掻き上げながらサラッと答えられた。

全然関係なさそうだった。

え、何それ。

「新しい道が出来るとかで区画整理が行われて引っ越さなきゃいけなくなったの。別のところにもう家建ってるから」

5年てすごい。

全然変わってないようでいろんなことが変わっていた。

新しい道の話なんてあったんだ、全然知らなかった。
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