タイムスリップ・キス
「晴、座れよ。コーヒー入れたから」

「あ、ありがとう」

「あと晴…高校生の方の、落ち着いて1回話そう」

「……。」

私もコーヒーが飲めるようになってた。
そこは少し変わってた。

私が私の前に座る、それは変な感覚で思わず唇を噛んだ。

「…めちゃくちゃすぎる私、最悪!ほんとに来た…っ」

先に声を出したのは未来の私で、はぁーっと長めの重い息を吐いた。

私の目の前で私が頭を抱え、私に飽きれている。

この状況には何も答えられなくてただ黙って前を見るしかなかった。

「もうなんでこうなの…っ」

何も言わなくてもさすが本人、飲み込みが早くて1人でどんどん沈んで行った。

やばい、そーゆうとこは全然変わってない。

小さな丸いローテーブルは3人ではぎゅうぎゅうで、そのせいもあってより肩身も狭くなった。

「…今すぐ帰って」

「え?」

「早く急いでさっさと帰って!!」

「ちょっと待って、私だって帰りたいけどっ」

声を荒げながらこっちを見てる。

グッと力の入った瞳に、テーブルの上に置かれた手は握りこぶしが作られていた。

「だいたいわかるの、だって私なんだから!なんでここへ来たのかも、何をするつもりなのかも…っ」

グーっと手に力が入っていく、ぷるぷると震え怒りがどんどん膨らんでいくようだった。

「一刻も早く帰って、それができないなら…絶対に伊織先輩には会わないで!」

ドンッとテーブルを叩いた。

大きな声にぶるっと肩が震えた。

「なんで!?どうして会ったらダメなの?伊織先輩に会いに私はここに来たんじゃないの!?」

「全然違うから、伊織先輩関係ないから!」

「だって伊織先輩と小西先輩を…!」

私が私を強い視線で見た。

「帰って」

あんなに声を張り上げていたのに突然熱を失った冷たく刺さるような声に圧倒され言葉に詰まった。

未来の私なら何か知ってると思ったし、どうにかしてくれると思ったのに。

私と同じ気持ちだと思ったのに。

「晴、そんなムキにならなくても…。相手は過去の自分なんだから」

それと、疑問だった“晴”って呼ぶこと。

認めたくはないけど、たぶんそうだ。


山田の彼女…ってやつ。


未来の私は可愛くてキレイで、小西先輩と別れた伊織先輩と付き合ってることが目標だった。

「…私が帰るわ、午後からバイトあるし」

未来の私が立ち上がった。

山田にまたねと声をかけて出ていく、そんな姿私の未来ビジョンにはなかった。

バタンっと閉じられたドアの音に堪えきれず同じように外へ出て追いかけた。

「待って!」

「…なに?」

高校生の私は伊織先輩しか見えてなくて、いつか伊織先輩と付き合えるって今も夢見てる。

ずっと伊織先輩のことが好きなはずなのに。

「なんでっ…、山田と付き合ったの?」

山田のことなんかちっとも好きじゃなかった。

だからどうして付き合ったのか全く理解ができなかった。

「私から告白したの」
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