タイムスリップ・キス
赤色の薄いスマホを買ってもらった。
めちゃくちゃ軽い、持ってないみたいに軽い。

「てかカメラの個数多っ!」

買ってもらったスマホを持って駅前の高架歩道の上でさっそく開封をした。

5年前も何度もここを通ったけど、景色は少し変わった気がした。

辺りはすでに真っ暗で街中が蛍光灯の光りで充満している。

「ねぇカメラ8個もあるんだけど!?こんなにいるの!?」

「うわー、その反応俺が2年前にしたやつ」

「…しなきゃよかった」

スマホの裏側には大きなカメラが1つ、その周りを囲むように小さな7つのカメラが付いていた。
私も持ってるのは3つだ、5つも多く付いている。

「これどんだけキレイな写真が撮れるの?」

「まぁまぁ撮ってみろ」

山田がカメラアプリをタップした。

切り替わった画面は確かにキレイだったけど、そんなに驚くほどは変わってなくて期待しすぎたと思った。

「なんか、そこまで…」

「こっからだから、すげぇのは」

再び山田の人差し指でタップされたカメラのシャッターからカシャっと音が鳴ると同時現れた光景に、5年分を発散するかのように驚いてしまった。

「わっ!!!何これすごいっ!!!」

その瞬間現れたのは目の前の夜景そのまんま。

本当にそのまんま、てゆーかもうほんとに目の前!

ぐわっとスマホを飛び出して目の前に立体的に浮かび上がっていた。

「………すご」

3Dとか4Dとか流行ってたけど、これはなんて言うのかな。私からしたらトリックアートみたい。

「三次元カメラって言うんだよ、それ。すごいだろ?」

「うん、すごい…」

「撮った写真をその時の思い出をより鮮明に残せる機能!」

未来(こっち)に来てこんなに感動したのは初めてかもしれない。

スマホはこんなことになってるんだ。

最新機種を通り越して新未来機種だ。

「おもしろいだろ」

「うん!これめっちゃいい!もっと撮りたい!」

つい夢中になっちゃって、こんなに笑ったのも未来(こっち)へ来てから初めてだった。

「な、案外未来も楽しいだろ?」

山田もそんな私を見て笑った。

もしかして山田は…

「まぁ俺は5年前の使ってるんだけど」

「なんで山田は変えないの?不便じゃないの?」

「だって使えるし、気に入ってるからなこれ」
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