タイムスリップ・キス
あのカフェで午後2時に待ち合わせ。

考えてみたら伊織先輩と約束なんて初めてだった。

いつも私の片想いだったから。

遅れないように少しだけ早く家を出たのに伊織先輩はもう待っていた、昨日と同じカウンター席に座って。

「こんにちは!」

「こんにちは」

握りしめて来た小銭を確認する。

昨日飲んだダージリンティーは一番安くて460円、もう1杯飲める。

…山田には申し訳ないけど。
いくらお小遣いとしてくれたとしてもこんな使い方よくないとは、思ったけど。

手を合わせて目を瞑った。

ふつつかな娘でごめんなさいって呟きながら。

あ、使い方違うかもしれない。

まぁいいか。

伊織先輩の隣に座る。

昨日と同じダージリンティーを注文した。

「昨日は本当にありがとうございました、これ…ハンカチ」

「あぁ、わざわざありがとう」

伊織先輩から甘い香りがする、何の紅茶を飲んでるのかな。
その香りも伊織先輩を表しているようなバニラのような香りだった。

「あの…!」

「ん、なぁに?」

「紅茶お好きなんですか?」

「うん、そうだね」

「………。」

高校生の頃はどんな内容のことでも話したのに、少し大人になった伊織先輩にはちょっとだけ緊張して何を話したらいいか悩んだ。

「この辺に住んでるんですか?」

「そうだよ」

「ここにはよく来るんですか?」

「来る、かな」

大人の会話って何…?
絶対おもしろくないよねこんな会話…

もっと何話すか考えてきたらよかった!

伊織先輩に会えることが嬉しくて早く今日にならないかなって昨日は眠れなかったのに…!

「君は?」

「え?」

「君は紅茶好き?」

“晴ちゃんは寒いの好き?”

「好きです!」

一言一句身に染みる。

それだけで嬉しくなる。


この気持ちはどうしたら消せるのかな。


消さなくてもいい未来は用意されてないの?
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