タイムスリップ・キス
一番聞きたいこと、だけどどうやって聞けばいいのかわからない。

カラカラになった喉を潤すため、ごくんっとダージリンティーを飲んだ。

あのっ、と声を掛ける前に伊織先輩が話し出した。
どこか遠くを見ながら、甘い香りの紅茶を飲んで。

「ここにいるとね、懐かしい気持ちになれて好きなんだ」

そう言ってどこか切なく笑ってみせた。

「…思い出の場所、なんですか?」

「ううん、全然。人間ってそうゆう風に出来てるらしいよ、深く刷り込まれた潜在意識によって自分の経験してないことを懐かしく思うことがあるんだって」

「…む、難しいお話ですね」

微笑んで、静かに紅茶を飲んだ。
マネするように同じように私の一口飲んだ。

私のことには気付いてないのかな。

まさか5年前の世界から来てるとは思わないもんね、そんな発想ないかな。

少し期待していた。

もしかして覚えててくれるかなって。

伊織先輩にとって私は高校時代のほんの少しの思い出に過ぎないのかな。

小西先輩とは今どうしてるんだろう…?

聞きたい。
でもどうやって聞いたらいいの。

「じゃあ、僕はそろそろ」

「え、もう帰っちゃうんですか!?」

「うん、ちょっと予定があるし」

予定…!

それは小西先輩とだったり…?

「どなたかと…お約束ですか?」

「ううん、これからバイトなんだ」

普通のことなんだけど、なんだか伊織先輩には似合わない言葉に少しだけびっくりした。

そっか、バイトぐらいするよね。

あの頃はしてなかったけど、しても全然普通のことだよね。

「ハンカチありがとう、じゃあね」

伊織先輩が席を立つ、次はもう繋ぎとめるキッカケがない。

でも何か言わなきゃ。

「あのっ」

ガタンッと音を立てて立ち上がった。

伊織先輩の瞳を見て。

「私もまたここへ来ていいですか?」

「……。」

いや、それは勝手にしろよって感じだよね!?

別にここに来るのに許可なんかいらないもんねっ

でもそうじゃなくて、会いたいから。

「お話、したいです…!」

少し驚いた表情を見せた伊織先輩は2回瞬きをしてから答えた。

「うん、また話そう」
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