タイムスリップ・キス
とは、言ったものの私にはお金がない。

さすがに山田にもらうことも出来ないし。

せめて未来(こっち)に来る時に財布ぐらい持って来るんだった。

校舎裏の自販機に買いに行く時でさえ、必要な小銭しか持ってなかったからなぁ…。

え、私もバイト探す?
だけど身寄りのない高校生雇ってくれるところなんてあるかな?
そんなの怪しいバイトだけ…

ぼーっと寒空の下、公園のベンチで空を見てた。

絶賛暇すぎる。

未来に来といて暇って何なの。

何をすればいいのか未だわからないなぁ。

「…帰ろ」

帰って夕飯の支度でもしよ。

今の私に出来る事はまずそれだ。

公園からの帰り道、お金はないけど思いを捨てきれずカフェの前を通って帰ることにした。

なんとなくゆーっくり歩いてしまうカフェの前。


今日は伊織先輩来てないのかな…?


「今日は寄ってかないの?」

「!」

窓を覗く私の前にふわっと現れた。
今日も会えるなんて思わなくて、ドキンッと胸が波を打つ。

「…こんにちは」

「こんにちは」

「カフェに来たんですか?」

そうじゃないと気付いたけど、聞いてしまった。

「ううん、僕は通りかかっただけ」

胸元には花束を抱えていたから。

「私も、そんな感じです」

黄色やオレンジのあったかい花たちを大事そうに。

まるで誰かにプレゼントするみたいな。

「キレイですね…」

「え、あぁ!この花?」

「あっ、すみません!つい口に出しちゃってっ」

「キレイでしょ」

えぇ、とっても。

やばい、ずしんって何か来た。

未来でもこの感覚に陥ることになるとは。

「これは僕の働いてるお店のなんだ」

「え?」

「向こうの、もう少し行ったこの通りの花屋でバイトしてるんだ」

バイト?バイトしてるって言ってたけど、花屋さんでしてるの?

伊織先輩が花屋さんでバイト…

何それめちゃくちゃ合う!!

伊織先輩が花を好きだなんて初めて聞いたけど!

「たまにこうしてもらえるんだ」

にこっと微笑む伊織先輩と暖色系の花たちがこれほどにないくらいピタッと合わさる。

「よかったら、今度遊びに来てよ」

「いいんですか?」

「うん、ぜひ。キレイな花、もっといっぱいあるから」

「行きます!絶対、行きます!」
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