タイムスリップ・キス
だからつい浮かれ心で教えてもらった花屋さんに来てしまった。

こじんまりした街の花屋さんって感じで、働いてるのは伊織先輩とここの店長さんって言う人。

だいたい私のお母さんと同じぐらいで、ハキハキと挨拶をされた。

「いらっしゃい!小さなところだけど種類は多いよ、ゆっくり見て行ってね!」

「ありがとうございます…っ」

あんなおしゃれなカフェもそうだったんだけど、花屋さんに来るのも初めてだ。

買ったこともなければ、貰ったこともない。

てゆーか、花たっか!!!

こんなにするんだ…
私の今現在の所持金80円なんだけど。

「どんな花が好み?」

「…!」

じーっと花を見つめていた私に伊織先輩が話かけてくれた。

どんな花…
とかも考えたことないけど。
好きな花、えっと、何…

「チューリップ…?」

「チューリップは冬にはちょっと…」

頭をフル回転させ出て来たのがこれしかなかった。恥ずかしい、ボキャブラリーなさすぎ。

「伊織先輩はお花好きなんですか?」

「え、僕名前言ったっけ?」

あ、しまった!つい癖で呼んじゃった!
まだ未来(こっち)では聞いてなかった!

「い、言いましたよ!こないだ、聞きました!」

押し切ってそうゆうことにした。
先輩って言ったことはもうこの際スルーだ。

「…好きになったんだよね、ちょっと前から。部屋に花があると明るくなるって言うけど、その通りだなって思って」

そっか、通りで知らなかったわけだ。

この5年間の伊織先輩なんだ。

「君の名前は?何て言うの?」

「えっ、私の名前…」

“絶対に伊織先輩には会わないで!”

別に“私”に言われてそうしたわけじゃない。

こっちの方がいいと思ったからそう言っただけ。

「椎名夏、です!」

こっちに来て2回目、この名前を名乗ることになった。

「じゃあ…、なっちゃん」
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