タイムスリップ・キス
駅前の時計台の下で待ち合わせ、山田の家にあった未来(こっち)の私のちょっと可愛い服を着て、きっともうすぐ伊織先輩が来る。

初めてのことにそわそわする。

時間決めて、場所決めて、会おうだなんて、なんかこれって…


デートみたい…っ!!!


舞い上がりすぎて落ち着かない心を必死になだめた。

浮かれすぎて悟られたら嫌だし、気合入りすぎて引かれるかもしれないし。

はやる気持ちを閉じ込め、大きく深呼吸をした。

「なっちゃん、お待たせ」

「伊織先輩…!」

「待った?」

「いえ、全然!今来たとこです!」

「そっか、…ならよかった」

にこりと微笑んで。

交わる視線に胸が熱くなる。

…浮かれすぎないように私。

「じゃあ、行こうか」

「はいっ!」

なんでわざわざ駅前で集合したのか、いつものカフェに行く予定なんだけどその前に行きたいところがあるって言われたから。

伊織先輩からそんなこと言われるなんて思ってなくてまた浮かれそうになった。

「どこ、行くんですか?」

「紅茶に合うお菓子が欲しくて」

「何か気になるものでもあるんですか?」

「ううん、紅茶はよく飲むんだけどお菓子とかはあんまりだから…なっちゃんなら詳しいかなって思って」

“なっちゃんなら”やっぱり晴だって名乗ればよかったかな。そこは少しだけ悔やんだ。

「詳しいですっ!」

「教えてくれると助かるよ」

私に向けられた言葉に初めて伊織先輩の瞳に映った気がして、鳴り続ける音が止められない。

私の瞳にはどうしたってキラキラして見えてしまう。

「なっちゃんの知ってるお店とかある?こうゆうのってどこに買いに行けばいいのかな?」

「え、えっと…っ」

知ってるお店はあるけど、まだあるのかな?どうなんだろう?

コンビニとかスーパーでも買えるけど、どうせならケーキ屋さんとか専門店の方がいいし!その方が伊織先輩に合うし!

「あ!駅の、南口にある焼き菓子工房は!?」
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