タイムスリップ・キス
「聞いてもいいですか?」

「いいよ、何?」

「前に懐かしい気持ちになるからあのカフェが好きって言ってたじゃないですか」

「うん、言ったね」

「それってどんな感じなんですか?」

ひゅーっと風が吹けば木々が揺れる。ざわざわと騒がしく、それだけで賑やかに感じる。

「どんな感じ、って?」

「私の感覚だと懐かしい気持ちって寂しいって感情なんですよね、昔を懐かしむって…思い出して切なくなるみたいな」

「んー…、そう思う人もいるかもね」

まぶたを少し開けてじぃーっと一点を見つめる伊織先輩の横顔がついつい気になって見てしまった。

「僕はその寂しいって気持ちもひっくるめて好きなんだ」

どこを見ているかわからない、遠い視線。

「寂しいって、何かに対して思う感情でしょ?そこに確かに存在してたからこそ溢れる思いだと思うんだ」

伊織先輩は優しくて、カッコよくて、いつでも笑ってて。

それでいて、芯の強い人。

凛とした瞳が私を捉える。

「こうしてなっちゃんと話してるのも懐かしい気持ちになるよね」

“ひっくるめて好きなんだ”

自分でもわかってる。
自分のいいように解釈しちゃってるって。

だけど、ふふって笑う伊織先輩を見たら。

「楽しいなって思うよ、あの頃みたいで」

「……っ」

交じり合った視線から、全部伝わってるんじゃないかって。

そう思った。

“あの頃みたいで”

確かにそう言った。

気付いてるんですか、私が過去から来たって。

あの頃、楽しいって…


少しでも伊織先輩は思っててくれましたか?


もう一度やり直せませんか?



もう一度、伊織先輩に好きだって言っても…
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