タイムスリップ・キス
「あっ」

「晴!!」

急に蘇った記憶に動揺して、目の前にいる山田の顔が見られなくなった。

それにあわててブロックから飛び降りようとして足を踏み外した。

あの時みたいに。

「あっぶな…、大丈夫か?」

でも今日はしっかり抱きかかえられた状態で助けてもらった。

私よりはるかに大きくなった山田はもうこれくらいじゃ動じない。

思い出してしまった。

全部、あの日何が起こったのか。
 
これだ、きっとこれなんだ。

伊織先輩と小西先輩を別れさせることでもなく、伊織先輩と私が付き合うでもなく、過去に戻れるキッカケは…


山田とキスだ!


「晴?」

「あ、わ、大丈夫!もう大丈夫だから!ありがとうっ」

サッと離れた。
絶対不自然だったけど。

「…何か思い出した?」

「………。」

どうしよう、言えない。

言いたくない。

顔も見れない。

山田に変に思われたのだってわかってる。

だけどこんな時どうしたらいいのかわからないの。

「晴?どした?」

だってキス、…初めてだったんだもん。

「ううん!やっぱ全然わからなかった!」

無駄に声だけ大きく出して、精一杯笑って誤魔化した。

山田に背を向け、もう帰ろうと歩き出すしかなかった。

こんな顔、山田に見せられないよ。

自分でも抑えきれないぐらい顔が熱を帯びてるんだもん。

キッカケがこんなことだとは思わなかった。

伊織先輩と小西先輩を別れさせるよりも、伊織先輩と私が付き合うことよりも難しい。


山田と…!


悟られないように軽く下を向きながら歩いた。

こんな時身長差はちょっとありがたいと思った。顔を見られないで済んだから。
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