タイムスリップ・キス
「…いつまでいるの?」
山田が電気ケトルに水道の蛇口から出る水を入れる隣で、未来の私がマグカップの用意をしながら聞いて来た。
後ろに立つ私の顔は全く見ないまま。
「…わかんない」
「早く帰って、あんたの居ていい世界はここじゃない」
静かな落ち着いた声だった。
まるで私じゃないみたい。
「でも…、まだ帰れないし」
「どうして?」
「どうしてって…」
私にはまだやり残したことがあるから。
もしかして、ハッキリと確証を得られたわけじゃないけど、過去への帰り方になったキッカケは…たぶんわかった。
それを試すのはちょっと勇気がいるけど、あの瞬間未来へ来たんだから。
だけど、そうだとしても…
未来へ来た意味は何なのか?
それは掴めてない。
「それには私にもいろいろ…」
「何、いろいろって」
「あるの、いろいろ!」
まだ掴めない。
「…伊織先輩のこと?」
「…っ」
しんっとした冷たい空気に、似合わない私の平坦な声。
私の頭の中にはずっと伊織先輩がいる。
「もう伊織先輩のことは忘れて、小西先輩がいるんだから」
「え、でも小西先輩とは別れたって…」
「…会ったの?」
ゆっくりと振り返った私が私を見た。
睨みを利かせた瞳に刺されるような気持になった。
「伊織先輩に会ったの!?」
「…っ」
「なんで!?会うなって言ったでしょ!会わずに早く帰れって!」
こめかみに青筋を浮かべ、私の肩を掴んだ。
グッと抑えられ、私の力なんて大したことないはずなのに掴まれたところが痛くて動けなかった。
「どうして会ったの!?」
脅威を与えてくる視線と制御のない強い力、上から来る圧力のかかった声に、私だってこのまま引き下がれなかった。
「…何がダメなの?頭ごなしに言われてもわかんない!」
「わからなくていいの!私本人が会うなって言ってるんだから!」
「私が誰と会おうと私の勝手でしょ!放っておいてよ!!」
「ここは私の世界!私の世界で勝手なことしないでって言ってるの!!」
取っ組み合いのケンカ寸前、クイッと吊り上がった眉毛は全然下りて来ない。
私も負けじとめいっぱい目を開いた。
「何もできなかった私に何も言われたくないいっ!!!」
伊織先輩のこと諦めたんでしょ?
諦めて山田と付き合ったんでしょ?
そんな意気地なしにとやかく言われたくない!
私は私で夢を叶えたいから未来に来たんだから!!
「は、何言ってんの…っ!?」
未来の私の手が飛んで来るかと思った。
大きく振りかぶった右手に思わず目を閉じる。
叩かれる…!
「晴っ」
………?
身構えたのに何も起きなくて恐る恐る目を開けると、山田が未来の私の上げた右手を掴んでいた。
急に精気を失った未来の私はそのままゆっくり手を下ろした。
ぽんぽんっと背中をさすって、声を掛けて、山田がなだめてる。
何それ…
なんで未来の私が泣きそうな顔してるの?
全然わからないんだけど…なんで?
どうして?
私だって泣きたいし、そんなのずるいじゃん…っ。
私は子供だから。
所詮高校生だから。
抑えられない感情は止められなかった。
瞳からこぼれる涙そのままに、飛び出すようにアパートを出た。
山田が電気ケトルに水道の蛇口から出る水を入れる隣で、未来の私がマグカップの用意をしながら聞いて来た。
後ろに立つ私の顔は全く見ないまま。
「…わかんない」
「早く帰って、あんたの居ていい世界はここじゃない」
静かな落ち着いた声だった。
まるで私じゃないみたい。
「でも…、まだ帰れないし」
「どうして?」
「どうしてって…」
私にはまだやり残したことがあるから。
もしかして、ハッキリと確証を得られたわけじゃないけど、過去への帰り方になったキッカケは…たぶんわかった。
それを試すのはちょっと勇気がいるけど、あの瞬間未来へ来たんだから。
だけど、そうだとしても…
未来へ来た意味は何なのか?
それは掴めてない。
「それには私にもいろいろ…」
「何、いろいろって」
「あるの、いろいろ!」
まだ掴めない。
「…伊織先輩のこと?」
「…っ」
しんっとした冷たい空気に、似合わない私の平坦な声。
私の頭の中にはずっと伊織先輩がいる。
「もう伊織先輩のことは忘れて、小西先輩がいるんだから」
「え、でも小西先輩とは別れたって…」
「…会ったの?」
ゆっくりと振り返った私が私を見た。
睨みを利かせた瞳に刺されるような気持になった。
「伊織先輩に会ったの!?」
「…っ」
「なんで!?会うなって言ったでしょ!会わずに早く帰れって!」
こめかみに青筋を浮かべ、私の肩を掴んだ。
グッと抑えられ、私の力なんて大したことないはずなのに掴まれたところが痛くて動けなかった。
「どうして会ったの!?」
脅威を与えてくる視線と制御のない強い力、上から来る圧力のかかった声に、私だってこのまま引き下がれなかった。
「…何がダメなの?頭ごなしに言われてもわかんない!」
「わからなくていいの!私本人が会うなって言ってるんだから!」
「私が誰と会おうと私の勝手でしょ!放っておいてよ!!」
「ここは私の世界!私の世界で勝手なことしないでって言ってるの!!」
取っ組み合いのケンカ寸前、クイッと吊り上がった眉毛は全然下りて来ない。
私も負けじとめいっぱい目を開いた。
「何もできなかった私に何も言われたくないいっ!!!」
伊織先輩のこと諦めたんでしょ?
諦めて山田と付き合ったんでしょ?
そんな意気地なしにとやかく言われたくない!
私は私で夢を叶えたいから未来に来たんだから!!
「は、何言ってんの…っ!?」
未来の私の手が飛んで来るかと思った。
大きく振りかぶった右手に思わず目を閉じる。
叩かれる…!
「晴っ」
………?
身構えたのに何も起きなくて恐る恐る目を開けると、山田が未来の私の上げた右手を掴んでいた。
急に精気を失った未来の私はそのままゆっくり手を下ろした。
ぽんぽんっと背中をさすって、声を掛けて、山田がなだめてる。
何それ…
なんで未来の私が泣きそうな顔してるの?
全然わからないんだけど…なんで?
どうして?
私だって泣きたいし、そんなのずるいじゃん…っ。
私は子供だから。
所詮高校生だから。
抑えられない感情は止められなかった。
瞳からこぼれる涙そのままに、飛び出すようにアパートを出た。