タイムスリップ・キス
ドキドキとすでに心臓の音がうるさい中、コクンと頷いた。

一瞬だし、別に減るもんでもないし。

大丈夫、どうってことない。

一度下ろした視線を上に向ける。

大人の顔した山田がいる。

「………。」

バックバク震えてる。

これって何のドキドキなんだろう。

経験不足すぎるから鳴ってるんだよね。

だって山田は普通にしてるし。

こうゆう時ってどうしたらいいの?

目閉じたりするの?

別に雰囲気とかどうでもいいんだから、そんなことしなくてもいいんだっけ?

無駄に焦って、いろんなことが駆け巡る。

「いい?」

「い、いい!」

ただ直立不動に背筋を伸ばしてその場に立つ私に、ゆっくりと山田の顔が近付いてくる。

訳も分からずギュッと目をつぶった。

山田にも聞こえちゃうんじゃないかってぐらい心臓が大きな音を出していた。

「……っ」


あれは初めてのキスだった。

キスなんて呼べるようなものじゃないかもしれない。


だから私にキスの仕方なんてわからないの。


あの時のは偶然、そんな風になっちゃっただけ。 

カウントにもしてない。

ちゃんとした感じのではなかったから。


…ね?

 
だから…


つまり…


これは…


「やっぱ無理!!!」


あと5センチ。
近付けばいいだけだったのに、耐えきれず自ら離れた。

「だってしたことないんだもん!できないよ!だって好きな人とっ、最初は、ちゃんと…っ!」

わかりやすくテンパって、取り乱してしまった。

また山田を困らせちゃった。

やばい、今度こそ本当にやばい。

どんだけ振り回せばいいの私!!

今どんな顔してるかな?

全然顔を上げられなくて、足元ばかり視線が行ってしまう。

震える手をぎゅっと握りしめた。

どうしよう、何か言わないと…っ

「俺今日の運勢1位だったんだよ」

「…え?」

突然、想像してなかったことを言われつい顔を上げてしまった。
キョトンとしてつられるままに、山田の顔を見上げた。

「2位の晴よりよかったんだよな」

笑ってた。いつもみたいに。

「それで“何もしなくてもいいことが起こる!”って書いてあった」

私の思ってたのと全然違った。

「…だから、こんなことしなくても元の世界に戻れるんじゃない?」 

穏やかな顔つきにふんわりと、緊張してた空気が一気に柔らかくなる。

こわばっていた私の体もすーっと抜けていく。


…また助けてもらっちゃった。


もう何度目かな、何度でも助けてくれるから。

山田ってそんな力持ってた人なんだね。

高校生の私は知らなかったよ。

「大丈夫、大丈夫!そのうち戻れるって!」
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