タイムスリップ・キス
豚肉としょうがとキャベツを買って帰った。玉ねぎは家にあるから。

「生姜焼き?めっちゃいい匂いしてんじゃん!」

「いっぱい作った!」

仕事から帰って来た山田がキッチンで手を洗いながら“うまそう”って言ってくれた。

それだけでちょっと嬉しくなった。 

いつもみたいにテーブルを囲っていただきますをする。

山田が豪快にお肉をペロッと1枚頬張った。すぐにご飯をかき込んで、口いっぱいに頬を膨らませた。

別の意味でこの時間は緊張した。

「…うまいっ!」

「ほんと?」

「おぅ、めちゃくちゃ!」

私もお肉を箸で掴んでパクっと食べた。

うん、悪くない!おいしい!

「めっちゃうめぇじゃん、すげぇ何倍でも飯食えるわ」

…ここは素直に嬉しくて。

だって山田に食べてほしくて作ったから。

「最ッ高!うまい!」

喜んで、もらいたかった。 

「おかわりある?」

「いっぱいある!」

店長さんに教えてもらってよかった。

簡単でおいしい20代男性が好きなメニューって何ですか?って、聞いといてよかった。

最初は生春巻きを勧められたけど、山田のイメージと違うし聞き直しといてよかった。

「めっちゃうまい!」

よかった。

何度もうまいって言ってくれて、残さず全部食べてくれた。

「あ、そうだ。明日って暇?」

「明日?」

「まぁ暇だよな、することないよな」

コップのウーロン茶を飲み干した山田が当然のごとく私より先に答えた。

「…暇だけど」

実際そうなんだけど。
未来(こっち)に来といてすることがないなんて状況あるとは思ってなかったし。

「今日出勤だったからさ、明日休みなんだ」

コトンっと空になったコップをテーブルに置いた。

「だからどっか出掛けるか!」

「………。」

「暇よりいいだろ?」

どうしたらそんなに普通でいられるの…
じゃなくて、普通にしてくれてるんだ。

私が居づらくならないように。

やっぱり今の山田は大人だなぁ。

私もいつまでも変な態度取ってたらダメだ。

山田が普通にしてくれてるのは私のためなんだもんね。

「うん、行く!」
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