タイムスリップ・キス
駅からは歩いて帰った。
2人して空を見上げながら、山田の家まで。

「やっぱ外だとあの星空は見えないねー」

「こっちが明るすぎるからな、もっと山の方とか行かないとだな」

「便利な世の中すぎるんだね」

駅近くの町並みは外灯がありすぎて眩しかった。そのせいで空には何も見えなかった。

「空気が澄んでると星がよく見えるって、空気が乾燥してるって意味だったんだな」

「ね!言い方よくしてるよね、澄んでるって言った方がカッコいいもんね!」

これはさっきプラネタリウムで学んだこと。

澄んだ空気は空気がキレイなことだと思ってたけど、乾燥って聞くとなんだか顔がつっぱって来る。

「あと冬は日没が早いから星見る時間が増えていいってあれはただの星好きの意見だったけど」

「天体観測に冬が向いてるの理由2つめそれだったもんね!」

思い出しながら感想を言い合って歩いた。

「晴の好きな星座は?」

「オリオン座!」

「定番じゃねぇか!」

「山田は?」

「オリオン座!」

「それしか知らないんでしょ!」

だから、もういつもの空気感だった。

てゆーか、ほとんど私のせいであって私が変にドギマギしてなければいつも通りで…それどころかいつもより楽しい気さえしていた。

だから、もう少しこのままでもいいやって思っちゃってた。

それがまた私のダメなところ。

自分のことしか考えてなくて、だから気付けないんだ。

「山田くん?」

聞き覚えのある声が聞き慣れない名前を呼ぶ声がした。

その声にピタッと足が止まる。

暗くて私のことは見えてなかったらしい。

「あ、なっちゃんも。…2人は知り合いだったの?」

「伊織先輩…」

暗闇の下、街灯に照らされた伊織先輩がにこりと微笑んだ。

「久しぶりだね、山田くん」

「そう…ですね」

このおかしな違和感に顔をしかめる。

名前を呼んだ時から不思議だった。


山田と伊織先輩はいつ知り合いになったの?


この5年は私にとって知らない世界過ぎたことを改めて知ることになった。
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