タイムスリップ・キス
駅前の明るい雰囲気からどんどん暗くなっていく帰り道、賑やかだった通りも遠ざかって何も言わない山田とただひたすらに歩いた。

…何か言ってくれると思ったのに。

黙りこくちゃって、山田じゃないみたい。

私は何て言えばいいの。

私から、聞いてもいいの…?

「ねぇ、さっきっ」

「明日は晴れるかな!」

「え?」

「駅から離れたら星!見えて来たな!」

「え、…うん」

山田の家に近付けば近付くほど外灯が減っていく。

だからさっきよりは星空が見えていた。

でも、そうじゃなくて。

わざと遮るみたいな。

聞いてほしくないんだ。

「寒いよな、早く帰ってあったまろうぜ」

早足になる、一歩が大きくなって私との距離が出来ていく。

山田の背中が遠くなる。

「あのプラネタリウム思い出したらいい夢見れそうだよな~」

ぐるぐる頭が回って、私には何を言ってるのか理解できないことばかり。

どうして山田が教えてくれないのかもわからない。

置いてかれそうになるぐらい出来た距離を走って駆け寄った。

「ねぇ、山田は伊織先輩と知り合いなの?」

「……同じ高校だったんだし、知ってても普通だろ?」

「でも私は山田と伊織先輩が話してるなんか1回も見たことないし!ちょっとカラオケで会ったぐらいしか記憶ないんだけど!」

「その後話すようになったんだよ、まぁ大した話なんかしねぇけど」

淡々と山田らしくない口調で教えてくれた。

だけど全然私の方は見てくれない。

まるで顔を見られたくないみたいだった。

「…それにさっき“同級生”だって」

「あー、そんなこと言ってた?全然気付かなかったわ」

そんなわけない、ハッキリ言ってた。

聞き間違えるわけない。

なのにはぐらかされた。

「言ってたよ!あれどーゆう意味?私も山田も高校1年生で、伊織先輩は2年生だよ!」

「じゃあそうなんじゃない?そうだと思うよ」

テキトーにあしらうみたいに。
必死に見上げてるのに、山田はずっと空を見てる。

「…何があったの?」

“絶対に伊織先輩には会わないで!”

その理由は“私”にしかわからないんだと思ってた。

「…なんで教えてくれないの?」

「教えるも何も他に言うことがねぇんだよ」

「じゃあ…伊織先輩の家に行ってもいいの?」

ピクッと一瞬山田が反応した。
顔は見れなかったけど、その言葉に一瞬だけ。

「…行かなくていいよ」

「どうして?」

「晴だって今更行きたくないだろ?」

「だけどっ」

「いいんだよ、もう伊織先輩とは関わるな」

「なんっ」

「大丈夫だからっ!!!」

山田の荒々しい大きな声が夜空中に響いた。

聞いたことない怒号のような叫びに、これ以上ないほどに目が見開いて体が固まる。

言葉が出て来ない。

しんっとした暗い夜道、山田が遠くなった。
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