タイムスリップ・キス
言われるがままに外に出て、自分に呼び出されるがままに向かった先はちょっと遠くのショッピングモールだった。

ここも5年前にはなかった気がする。

とにかく大きくて広くて、たくさんのお店が入っていた。

「ここのクロワッサンおいしいの!知ってる?」

「…知らない」

「ふーん、じゃあ5年前はなかったお店か。じゃあ帰りに買って行こ、瞬も好きなんだよね」

「へぇ…」

「瞬はパン党だからね」

それは知ってる。毎朝食パンだもん。

「あのお店のドーナツもおいしいの!」

「そうなの、へぇ…」

スタスタと私の前を歩いて、時折私に話しかけて。

「わぁー、このスカート可愛い~!」

呼んでおいて私より私が楽しそうに買い物してるこの状況。

自分の体にあててみたり、鏡の前でポーズ取ってみたり、その後ろでただ見ていた。

この時間何なの?一体…

「どう?このスカート」

「どうって…」

「でも高校生の私には大人っぽ過ぎるか」

そう言って元あったところに戻した。他のところに移動しようと、また歩き出す。
その後ろを付かず離れずの距離で歩いた。

「…ねぇ、大学は?行かなくていいの?」

「今日授業ないの。気楽なのよ、大学生」

「楽しい?」

「楽しい!だから戻ったら大学受験がんばってね」

「…重っ」

初めて来るショッピングモールは広くて、歩いても歩いても回り切れないくらい大きかった。

私に連れられて私の後ろを歩く。
前を歩く私はいつになく明るく振る舞っていた。

「…なんで今日私を呼んだの?」

「ん?」

「あんなに過去に帰れって言ってたくせに」

「……。」

私に煙たがられた存在なのに、やたら声高く話しかけてくる。

そんなの不自然だってわかってた。

それは振り返ることもなく、静かな声で返って来た。

「“晴が凹んでるかもしれないから”って」

…わかってた。

なにそれ…
じゃあ山田が慰めてよ。

どうして私なんかに頼んだの。
< 77 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop