タイムスリップ・キス
サイズもぴったりでシルエットも思ってた通りだった。

「着替えた?」

「わっ、待って!」

着替えてたけど、急に声を掛けられて言っちゃった。

試着室のカーテンの前では未来(こっち)の私が待ってる。

すぐにいいよって、カーテンを開けてもよかったんだけど…
顔を見ては聞けなかったから、カーテン越しに問いかけた。

「…ねぇ、聞きたいんだけど」

「何?サイズ合わなかった?」

未来(こっち)に来てからの1番の疑問だった。

私のことでも私がわからないことがあるなんて思ってなかったから。

「山田のどこがよかったの?」

「………。」

高校生の私はちっとも好きじゃなかった。

モブぐらいにしか思ってなかった。

中学の頃から一緒だから、それだけでよく話してただけなのに。

そんな未来は想像してなかった。

「…優しいでしょ」

柔らかな口調で返って来た。

その声は愛しそうに、カーテンの中の私に響いてくる。

「いつでも私の事考えてくれてるの、…それに気付いちゃったからかな」

笑ってるように思えた。

そんな弾んだ声だった。

ゆっくりカーテンを開ける。

未来(こっち)の私が微笑みかけた。

「…あんたも、気付いちゃったでしょ?」

「…うん」

なぜか涙が溢れてきて、俯く私に私がぽんぽんっと頭を撫でて抱きしめてくれた。


伊織先輩のことが好きだったのに。


2回も告白しちゃうぐらい好きだったのに。



でも変なの、昨日突き放されたことが悲しくてしょうがないの。


こんなに涙が出るなんて思わなかった。
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