タイムスリップ・キス
すっかり日は沈み、寒さの増した冬の夕暮れ。

伊織先輩の家から出て山田と2人で歩いて帰った。

空を見上げる山田が“星がキレイだ”って呟いた。

「全然星座詳しくないけどオリオン座だけはすぐに見付けられるよな」

だけど私には空を見上げる余裕なんて一切なかった。

「なんでだろうな?日本人の心にあんのかな、オリオン座イズム」

「…ねぇ山田」

「ん?何、つまんなかった今の?」

山田が伊織先輩に会いに行こうって言った意味は何だったの?

「聞きたいことがいっぱいあるんだけど」

「…今日1日だけで足りるかそれ」

はぁっと吐いた山田の息が白くなった。

聞きたいことがいっぱいあった。

私の知らないことは多すぎて、全くもって繋がらないものばかり。

過去に帰るにも帰れない。

その中でどうしても最初に聞いておかなきゃいけないことが1つあった。


「小西先輩は今どうしてるの?」


ずっと伊織先輩のことが好きだった。 


私にとって大切なのは伊織先輩で、伊織先輩を手に入れることが目標だった。


だから小西先輩と付き合ってるって聞いた時、悔しかったし羨ましかった。


2人が別れたらいいのにって本気で思うぐらい、疎ましかった。

いなくなったらいいのに。



そう思ってた。



なのにね、そんな風に思ったことをこんなに後悔するとは思わなかったよ。


「小西先輩はもういなんだよ」

前を歩く山田が振り返る。

街灯の逆光でうまく顔が見えなかった。

「どうゆう意味…?」

「晴も本当は気付いてるんだろ」

「………。」

「高校の頃の写真、あれが最期の小西先輩」

あの写真を見た時、疑問に思うことより恐怖を感じた。

少し前にカラオケで会った、優しくて大人っぽい小西先輩そのまんまだったから。

それはあまりに不自然で、それが異様に絡み付いて来た。


だからその答えは聞きたくなかった。





「死んだんだよ」
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