タイムスリップ・キス
太陽まで出て来たお昼前、コートを脱ぎながら山田が額の汗を拭った。

「晴、そろそろ中入るぞ」

「え、もうおしまい?こんなに雪玉作ったのに!」

「…今めちゃくちゃ歳の差感じたわ、おじさんもう限界」

「おじさん限界ならしょうがないか」

「おぉ、許してくれ」

いっぱい作っておけば一気に投げられると思って作りすぎちゃった。

このままにしておくのもあれかな…、邪魔だよね。

名残惜しい思いでまだ確保していた雪玉をバンバンと足で潰すことにした。
もしこれで転んだりするようなことになったらよくないと思って、平らにしてから家の中に入ろうと思った。

「腹減ったな、晴何食いたい?」

カッチカチになるまで雪玉を潰し、そのまま山田の元まで走ろうと一歩踏み出した時だった。

「んー、えっと…ねぇっ!?」

ツルッ、と勢いよく滑った。

平たくした雪がびっしりと自分の履いてる靴にこびりつき、それは氷状になって足を持ってかれた。片方の足で踏ん張ろうとするも、どっちもアイスバーン状態でむしろ勢いが増した。

これで転んだりするようなこと…

と思った伏線をすぐに自分で回収することになった。


やばい、転ぶ…!



そう思ったのも時すでに遅し、べちゃっと前に倒れた。

ちっとも痛くはなかったけど。

「…晴、お前マジでいい加減にしろよ」

山田の鈍い声が耳元に響く。
それはそれはとっても近くから聞こえた。

「え、山田!?助けてくれたの!?」

通りで痛くないはず、私の体はまるごと山田の上で衝撃は全部山田の元へ伝わっていた。

重なるように、山田が私の体を受け止めてくれていた。

「ごめん、大丈夫!?」

「大丈夫じゃねぇよ、背中びっちょびちょだからな!」

「すみません…っ!」

サッと山田の上から降りて、手を引いて体を起こすのを手伝った。
背中どころか頭もお尻も、後ろから見たら全部びしょびしょだった。

「…大変申し訳ございません」

二度あることは三度あるとは言うけれど、自分の不甲斐なさに居たたまれない気持ちでいっぱいだ。穴があったら入りたい、できることなら。

「…いーよ、晴がなんともないなら」

「…ありがと」

少し照れ臭く俯く私の握ったままだった手を山田がギュッと握り返した。

手袋をしてるけどすでに感覚のない手のひら、それでも強く握りしめられたことだけはわかった。

「小西先輩のこと、黙ってて悪かった」

「…それはもういいよ」

「でも俺はいつでも晴の味方だから、絶対に」

離された手、山田の手が震えていた。

それは寒さのせいなの?

それとも…


山田はまだ私に言えないことがある、よね?
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