タイムスリップ・キス
親子丼の材料って何かな。
鶏肉でしょ、玉ねぎでしょ、あとは…基本オムライスと同じな気がする。

じゃあだいたい冷蔵庫入ってたなー、親子丼の卵をふわふわにするコツはあるのかな。

そんなことを思いながらスーパーまで歩いた。

「……。」

いつもいろんな道を通って歩いた。

今日はどの道を通ろうかなって、いつも考えてた。

今日はあのカフェの通り、伊織先輩がバイトする花屋の前を。

…、無意識にここへ来ちゃった。

ずっと考えてるからかな。

………。

「なっちゃんっ」

Florist of dwarfs(フローリストオブドゥウォーフズ)の前を通るのに躊躇する私の前に風に揺れる髪をなびかせながら伊織先輩が出て来た。

「…伊織先輩っ」

でもその恰好はいつもと違ってエプロンはしていなくて、ここで買ったであろう花を抱えていた。

「こんにちは」

「こん…にちは」

「こないだはありがとうね」

「いえ」

伊織先輩が抱えるように持っていた花々、さすがの私でも見たことがある。

白に黄色、紫にピンク色の明るい色合いなのにどこか切なげにまとめられたあれは…


お墓に供えるための仏花だ。


“小西先輩はもういないんだよ”

“死んだんだよ”


きっと今から伊織先輩は小西先輩に会いに行くんだ。

「じゃあ僕急いでるから、またね」

伊織先輩が歩き出す。

その背中を見つめていた。

私の2回目の告白に、その可能性はないと答えた伊織先輩。


なのに、どうして私を家に呼んだのか。

それは椎葉晴に会うため。


なんで会いたかったのかな?

どうして、晴は会わないのかな?

(わたし)は何をしたの?


どうしても近付きたい、まだ少し遠い真実に。


私のことを知らないで過去に帰るなんて出来ないでしょ。


「伊織先輩…!」


一体私が何をしたの?

答えは私が聞くしかないんだ。


「あの…っ、私も一緒に行ってもいいですか?」

「………。」

振り返った伊織先輩は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにいつものように微笑んだ。

「いいよ」

何があっても私のことだから、私がどうにかしないといけないよね。

夕飯までには帰るからね、山田。

私は大丈夫、ちょっとだけ行ってくるから。
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