タイムスリップ・キス
お花をキレイにしてお墓を整えたところで、視線を合われるように伊織先輩がしゃがみ込んだ。

目を瞑って、静かに手を合わせる。

その横に、同じようにしゃがんで手を合わせた。


………。


……。



何を問いかければいいのかな。


なんて言えば…


ただ小西先輩を思い出すことしか出来なかった。


静かに目を開けると伊織先輩はまだ手を合わせていた。

その手は微かに震えていた。

小西先輩がいなくなってもう何年も経ってるはず、それでも伊織先輩の中の小西先輩は変わらない。


今もいるんですよね、あの頃の小西先輩がそのまま…


私には想像できない。


簡単に言えない。


私の薄っぺらい言葉では言えることがない。


身がすくむ。


「ねぇ、なっちゃん」

伊織先輩が目を開けた。

「…はい」

「…時間は絶対戻らないよね」

「……え」

ひゅーっと冷たい風が吹いた。

頬に当たるとキュッと体をすぼめたくなるようだった。

ロウソクが風で火を失った。
お線香の煙だけが流れてる。

「なっちゃん…」

私の目を見た、真っ直ぐと捉えるように。

「本当は晴ちゃんなんじゃないの?」

なんて悲しい瞳、色のない何も映らない瞳をしていた。

「え…」

視線を逸らせない。

ここで逸らしたら…、そう思うと。
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