タイムスリップ・キス
「晴…」

「……っ」

「…っ、ごめん」

口から洩れるような声の山田に思わず、顔を上げた。

「…なんで、山田が謝るの?」

泣いていた。
ポロポロと、大粒の涙を流しながら。

「…出来れば晴には知られないように過去に戻ってほしかった」

私の手をぎゅっと握った。

山田は全部知っていたんだんね。

知っていて、ずっと優しくしてくれてたんだ。

「晴は…今でも、傷付いてるから。自分が…別れるように願ってしまったから事故にあったんだって、後悔してるから…」

それなのに私は現れてしまった。

それはどんな気持ちだった?

見たくなかったよね?

バカみたいに伊織先輩との夢を語って、どうしてそれでも…

「でも晴のせいじゃないよ!あれは事故だった!いくら晴が伊織先輩たちとのことを願ったとして、そんな簡単に未来を変えられるものじゃない!」

山田が必死に訴えかけるように力強い言葉で私に言った。


だけど、そんな風には思えないよ。


だってそう願ったから未来(ここ)へ来たんでしょ?


願ってしまったから、あの日ここへ…。


「晴は過去に戻ってやり直したいって言った。でもやり直せなかった時、失敗してしまった時…今より苦しむことになる。これ以上苦しむ晴は見たくないから…っ」

静かな山田の家、すすり泣く声が響く。

次第に冷えていく体と山田の冷たい手。

震えていた。

私なんかが握っていいとは思えなくて、見ていることしか出来なかった。

「…だから、未来で起きた出来事は過去の晴には関係ないんだって…せめて知らないまま帰ってほしかった」


涙声が滲む。


伊織先輩、小西先輩だけじゃない。


山田もずっと苦しんでる。


ずっと苦しませてる。


「………。」

どこまでも優しい山田のこんな表情、胸に痛く刺さった。

「こんな話を聞かせることになってごめん、“晴”と約束したのに…」

ふるふるっと首を振った。

「山田は悪くないよ、悪いのは全部私だよ」

右手で顔を覆うようにして俯き涙を流す山田。

例えそれが本当に事故だとしても、願ったのは事実なんだから。

私のことは自業自得だよ…

「…晴だってわかってはいる。後悔はしてるけど…納得だって、戒めのように思ってる…」

「うん…」

「…でも俺が耐えられないんだよ」

だけど、何もできない自分には嫌気がさす。

いつだって何もできない。

大切な人たちを苦しめるばっかりで、傷付けてばっかりだ。

私はこんなにも守られているのに。
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