有り ふれた 人生

玄 季  ①


そんなある日に
美奈が、年配の男性を連れて
帰ってきた。
「美奈。どちら様?」
と、訊ねると
「私は美奈さんのお父さんの
友人で鬼頭と申します。」
と、言いながら名刺を渡してきた。

名刺には、鬼頭弁護士事務所と
書かれていた為
俺は、美奈と鬼頭さんを
交互に見ていると

鬼頭さんが
紙を出してきて
俺の前に置いた。

内容は
①マンション内のクリーニング
引越しに関する費用負担
②いかなる理由に置いても
佐藤 実奈氏との接触を禁ず。
と、書かれていた書類

「えっ、どういう事?」
と、訊ねる俺に

実奈は、俺に対して
嫌悪とも汚いとも見える顔をして
「先生。宜しいですか?」
と、言った。
「はい。わかりました。
また、ご連絡します。」
「はい。」
と、言う実奈は、
そのまま、実奈本人のマンションから
出ていった。

何が起こっているのか
まったくわからない俺は
「実奈!!」
と、呼びながら立とうとするが
直ぐに阻止された。

「いったい、なんなんだよ。」
と、言う俺に
「あなた、このマンション
誰が契約して入居されてるか
わかっていますか?」
と、鬼頭さんに言われて
何いってんだ?と。
「実奈が借りてる。
知ってる?わかってるけど。」
と、答えると

「では、どうして
この部屋に実奈さん以外の
女性を入れたのですか?
何の権限で?
このマンションは、あなたではなく
実奈さんが、借りているのですよ?」
と、今まで温和な話し方をしていた
鬼頭さんに強く言われた。

えっ?と、思っていたら

「お相手は、
 柳田 芳乃さんですよね。」
「どうして?」
「どうして、わかったのか?
ですか?」
と、言われて頷くと
「実奈さんが気づいて
柳田さんと話しました。
柳田さんは、直ぐに認められた
ようです。
友人だと思っていたのに
実奈さんは、あなたと友人から
裏切られたのですね。」
と、言われて

実奈が、気づいた?

頭の中が、真っ白の中

「今からが、大事な話しです。
まずは、こちらに署名を」
と、言われたのは、
接触禁止の用紙

動かない手を、無理やり動かす。

マンションの引越しについて
一、全て廃棄する事

二、同等のマンションへと
  引越し費用全額支払う事
  家具、家電全て100万円
  
「洋服まで、いれると
こんな数字ではありませんよ。
それに思い出の品物もありますが
あなた方 二人がいた空間の
ものは、廃棄するそうです。
わかっていますか?
人の部屋をなんだと
思っているのですか?
自分の部屋に行けばよかったでしょ?!」
と、言われて返す言葉もなかった。

「柳田さんにも請求致します。
80万円を。
私は、今まで弁護士をやってきて
こんな常識の無い人間を見たのは
初めてです。
実奈さんのご家族が亡くなられて
失意のどん底にいる
お母さんや実奈さんに
こんな裏切りをするなんて
人間ではありませんよ。

理不尽過ぎて怒りさえ湧く
あなたの保護者、大学にも
ご連絡しました。
柳田さんの保護者、大学にも
連絡済みです。」
と、言われて
驚きと怒りで
「何を勝手な事を!!」
と、言うと
「勝手な方は
あなたのほうですよ。
横山 玄季さん。」
と言われて、

「ご両親には、不服申立てが
あれば受けて立ちますと
お伝えしましたが
無いとの事でした。
では、こちらにも署名を。」
と、言われて
えっ、親が納得した?
と、思いながら
鬼頭さんに急かされて記入した。

マンションの解約は、
連絡してあるから
片付けと廃棄、退去まで
きちんとやるように言われて
鬼頭さんは、帰っていった。
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