無口な総長は飴が好き
いちごみるく
いつも通り授業を受ける
真剣に先生の話を聞いてノートをとりたいのに…!
「あ、あの…」
意を決して先生が黒板の方を向いている間にコソッと小さな声で後ろの人に声を掛ける
「…ん?」
眠たそうな声が聞こえる。
「か、髪イジるのやめてほしい…です…」
ずっとわたしの髪を一束手に取ってずっとくるくるして遊んでる彼にそう呼びかけるがいつものように返事はない
そんな彼は学校で恐れられている総長様で私みたいな一般生徒が本来関わる相手じゃないのに…
なぜが彼は私からいつも飴をもらおうとしてくるのです
私の髪をイジる反対の手で私のカバンを指差す
やっぱり…と、返ってきた反応にだんだん慣れてきた私は周りの誰にもバレないようにカバンから1つの飴を取り出した。
コソッと私よりも大きな彼の手に袋に包まれたイチゴミルクの飴を置く
「…イチゴ」
彼が後ろでふっ、と鼻で笑ってきた気がする
「かわい…」
なんて声が後ろからボソッと聞こえたものだから少し恥ずかしくなって顔の温度が上がる。
子供っぽいって意味ですか…!?
総長様…一ノ瀬くんにあげるつもりで持ってきているわけじゃないけど他人様にあげるならもっとちゃんとした飴持ってくるんだった…!!
なんて思っていると彼の手が両方引っ込んで後ろからガリッと飴を噛む音が聞こえる
飴、噛む派なんだなぁ…なんて考えていると私の肩をツンツンと突かれた
ビクッとして振り返ると黒マスクをしている彼が目を細めてこちらをジッと見ているものだからドキリとする。
いっつも休憩時間に彼を見にこのクラスに来る女の子たちの気持ちが少し分かる
あまり整えられていないようだけれど綺麗な黒髪に長いまつげ、マスク越しでも分かる高い鼻。
明らかにイケメンに入る彼は女の子たちにキャーキャー言われる存在。
そんな彼が至近距離にいるのでドギマギしてしまう
きっといつまで経ってもこの距離には慣れないんだろうなぁ…
そう思っていると彼がスッとこぶしを私の目の前に出してくるのでなにか渡すってこと?と、思い両手でお皿を作ると
ハラッと飴のゴミが私の手に落ちてくる
え?と思い彼を見るとゴミを指差すので何かあるのかと気になってジッと見ているとよくよく見ると字が書いてあった
読んでみると“おかわり”と、かいてあった
子供っぽい(?)って笑ったくせに好きなのかな…
そんなことを思って筆箱から取り出したメモにイチゴミルク美味しいですよね、と書いて飴と一緒に渡してみる
するとまたフッと鼻で笑う音が聞こえるので違ったのかなと、恥ずかしくなる。
ふと、あれ?と思う
飴を開ける音も食べる音も聞こえない
やっぱりいらなかった?
振り返ろうと思うけどまた顔が近かったらと思うと体が動かない。
振り返りすぎても目立っちゃうし…
きっと彼は目立つのが嫌いだ。
女の子に囲まれてイヤな顔をしていることが多いから
私のせいで目立ったら嫌われてしまうのだろうか
もう、飴をほしがってくれなくなるのだろうか
そこまで考えて自分でもおかしいな、と思う。
大好きな飴を取られなくなって笑われなくなって真剣に授業が聞けるようになるのになんでこんなに寂しくなるのだろうか
後ろに振り向いて聞いたらこの疑問に彼は答えてくれるだろうか
周りを見てバレないように小さな動作で振り返る。
目が合った
「…え」
思わず小さく声が出てしまう。
彼はまったく動じず、不思議そうに首を傾げる
なんで…
かぁっと顔が赤くなるのが自分でも分かる
そんな、優しげな目で私を見てたの?
何でもないです、と小さな声で伝えて前を向く。
授業聞かないといけないのに、彼のことばかりが頭の中を埋める
私のこと見てた
なんで?
今も肘をついて私の背中を見ているのかと思うと困惑する
熱くなった頬を両手で冷やしながらため息をつく
……席替えまだかなぁ
きっと彼の近くにいたら絶対に授業に集中できない
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