禁断×契約×偽装×策略
第四章 過去と秘密
――二十八年前、冬。
都内の高級ホテル、そのスイートルームに続く廊下を歩く浅見亮一はかなり緊張していた。呼び出した張本人が苦手であり、警戒すべき相手だからだ。
（いくらなんでも夫人と二人きりになるのはよくないんだが。しかも、こんな時間に）
とはいえ、宇條実康の代理人である身とすれば、その妻である宇條京香から呼び出されたら応じるしかない。
（あの人は苦手だ）
旧華族の流れをくむ家柄。いや、それ自体にはなんら問題はない。どこの誰でも、ルーツはある。そのルーツに固執し、不道徳に走らなければ。
金や権力に貪欲で見せびらかすような輩は得てして成り上がりで、真に良家と呼ばれる家柄はむしろ地味に努めて目立たず、しかしながらその立ち居振る舞いや言動は優雅で上品なものだ。
宇條京香は悪いほうに強く影響されている人間だった。宇條京香だけではない。彼女の実家、佐上家は、と言うべきだろう。彼らはまるで映画や小説に出てくる権力に縋りつくわかりやすい悪役のように、家柄を鼻にかけた人物たちだった。
（金がなくて宇條家に寄りかかろうとしているくせに、プライドだけは人一倍高い）
いかにその実家佐上家が政財界に顔がきこうが、浅見には関係のない話だ。ただその権威が宇條グループ、そして宇條ファミリーに牙をむくなら、たとえ妻や妻の実家であっても全力で戦い守るのだが。
部屋の前にやってきた。浅見がノックをすると、扉はすぐに開いた。
「いらっしゃい。どうぞ」
京香は顔だけ出してそう言うと、扉を開いた。
「失礼します」
部屋の中に入り、足を止めて振り返る。扉を閉めている京香は細い肩紐のマーメイドタイプのワンピース姿だ。ひざ下五センチくらいの長さで、足元は裸足だった。毛足の長い絨毯が敷かれているので裸足でもまったく問題はないが、黒光りする露出度の高いワンピース姿は、なんだか非常になまめかしく見え、浅見は顔をしかめた。
実康と結婚して二年。年は二十七歳。もう新婚でもないし、若気の至りでなんでも許される年齢でもない。よもや誘惑しようなど考えてはいないだろうが、いかに夫の部下とはいえ男と二人きりになるのにこんな姿で迎えるとはあまりに軽率だ。浅見は言葉通り一人で出向いてきたことを後悔した。
だが、美しい。
この女は偽りなく美しく、そしてそれを自覚し、自分の美貌が最大限威力を発揮するスタイルを熟知している。
浅見はさり気なく視線を逸らした。
「窓際の椅子に掛けてお待ちになって」
「…………」
言われる通り広いスイートルーム、そのメインルームの窓際に置かれている椅子に向かい、腰を下ろす。丸テーブルには空になったミネラルウォーターのボトルと、なみなみと注がれているワイングラス、そしてA４の茶封筒が置かれていた。
浅見は視線をズラし、テラス窓に向けた。東京の夜景が広がっている。キラキラと輝き、恋人となら最高の気分を味わえることだろう。
間もなく京香がやってきた。右手には丸テーブルに置かれているものと同じワイングラス、左手にはミネラルウォーターのボトルがある。京香は腰を下ろすと、ミネラルウォーターをワイングラスに注いだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます。それで、話とは？」
「ええ、そうね。でもまず、こんな時間に呼び出してごめんなさいね。そのことを謝るわ」
「お気になさらず。ですが、恐縮ですが、やることが山積でして」
「相変わらずお忙しいこと」
ふふふっと小首を傾げて笑う様子は小悪魔的だ。わずかに揺れるカールされた髪も、露出した肩や首元、胸の谷間も。それほど大きくないバストだが、彼女の場合大きすぎないことがより似合っていてエロティックに見える。
浅見はまたさり気なく視線を逸らせ、首元に手をやった。そして手を止める。
「どうかなさって？」
「いえ、なんでもありません」
無意識にネクタイを緩めそうになったのだ。その理由はすぐにわかった。
（暑いな。空調の利きすぎか？）
冬とはいえ、暑すぎやしないか――そう思って合点がいった。京香の衣装だ。肩ひものワンピース一枚では確かにこれくらいの温度が欲しいところだろう。アンダーにワイシャツ、スーツにネクタイの浅見とは体感温度はまったく違う。
浅見は丸テーブルのワイングラスに手を伸ばした。そしてそれを一口飲むと、冷たさが心地よくて続けて一気に飲み干した。グラスを置くと京香が新たに注いでくれる。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。では、本題に入りましょうか。宇條グループの総帥の息子、宇條実康の妻としてではなく、あなたの友人の宇條実康の妻としてお話したいのよ」
「どういう意味ですか？」
「言葉通りだわ。夫の友人を思ってのお節介よ。これ」
京香は置いてある茶封筒を手にし、中身を取り出して浅見の前に置いた。
「――――」
ファイルの表紙には『田中八重の調査報告書』とある。田中八重とは浅見が交際している女性の名前だ。
「御覧になって」
ファイルを手にして表紙をめくる。さらに次。さらに。何枚か捲ると写真が出てきた。
「――――」
八重が男と並んでホテルから出てくるところだ。ホテルといっても、一流ホテルやビジネスホテルではない。カップルが利用するものであることは一目瞭然だった。
「おつきあい、考え直されるべきとお伝えしたくてね」
「――――」
「大学在学中に司法試験に合格して、すぐに退学して司法事務所に勤められて。実績を積む傍ら、宇條グループの次期総帥の片腕として将来を嘱望されているから将来は安泰。ルックスもいいし、狙う女性は多いでしょうね」
浅見は全身から汗が噴き出してくるのを感じた。思考は暑いという言葉に占められ、考える余裕がなくなっている。
（暑い）
視線をファイルからテーブルに移すとワイングラスが見えた。反射的に手を伸ばし、飲む干す。京香はまた注いでくれた。浅見はそれも飲み干した。
「プライバシーに踏み込むのはよろしくないのでこれ以上は言わないわ。それはあなたが決めることだから」
耳は確かに京香の言葉を拾っているし、目は写真に写る恋人の姿を捉えている。男と並んで歩いている恋人の姿を。
（八重）
確かに最近忙しくて会えていない。だが、浮気をするような女性とは思えない。なにか事情があるのだろう。そうは思うが、浅見はそれ以上のことを考えられなかった。
体中が熱い。特に顔が。空調のせいかと思っていたが、違うようだった。汗が滴って止まらないし、やたらと喉が渇く。頭がぼうっとして意識が定まらない。
「あなた、浅見さん、どうかなさって？ 顔色が悪いわよ？」
「……いえ」
「いえ、じゃないわよ。汗がすごいわ。上着を脱いだら？ それにネクタイも」
「いえ、大丈夫です」
言葉が出てこない。目頭が痛いくらいに熱い。浅見は額を押さえた。確かに汗がひどい。拭おうと思ってジャケットのポケットに手を入れた。
（あ、あれ、ハンカチ）
ジャケットのポケットではなかったようだ。ズボンのポケット――そう思って立ち上がりかけて体がグラついた。
「危ない！」
大きな声がする。気づいたら京香がいつの間にか真横にいて、抱き着くようにして体を支えていた。
「あ……」
視覚が京香を捉える。白い肩、胸の谷間が見えて全身に戦慄が起こった。背筋にゾワリと妖しいものが走り、血液が下半身、股間に集まっていくのを感じる。そして抑えがたい衝動。
京香の肩に触れようとして目が合った。
（ダメだ、この人は実康の妻だ）
必死で理性をかき集める。親友であり上司であり恩人である宇條実康の妻という立場にあるだけで、浅見の好みでもなんでもない。むしろ苦手で近づきたくいないタイプだ。そんな女に欲情などするはずがない。
「本当に顔色が悪いわ。横になって休んだほうがいいわよ」
「い、いいえ……」
「ここはスイートルームだから部屋はいくつもあるわよ。さぁ、いらして」
腕を引っ張られ、浅見は立ち上がった。京香が言うように高級ホテルのスイートルームだ。部屋は全部で三つある。その一つを使わせてもらってもいいだろうか、という気持ちが起こり、彼女についていく。
整えられたベッドを見ると、早く横になりたいという衝動が起こった。と同時に目が回って足もとがふらつく。
「危ないわね。さぁ、横なって。あ、待って。先に上着を脱いで。ほら」
耳元で京香の高いが声がしてキンキンと響く。それがうるさくて煩わしい。
「ネクタイも取りましょう。苦しいでしょ？」
スルッとネクタイが抜かれる感触がする。京香がワイシャツの第一ボタンを外しているところだった。
「さぁ、横になって」
早く楽になりたい。そう思うばかりに従うと、視界いっぱいに京香の顔があることに気づいた。
（え）
京香が馬乗りになって顔を覗き込んでいる。
胸の谷間がなまめかしい。
「まだ苦しい？」
京香は言いつつワイシャツのボタンを全部外し始めた。ダメだ、そう言おうとして喉がつっかえた。彼女の指先がアンダーシャツ越しに触れ、敏感な胸の尖りをこすったのでビリビリと痺れた。
「あ……」
「どうかして？ もしかして、感じた？」
よせ、その言葉も出ない。
目が回り、汗がさらに噴き出し、股間の熱が高まる。
（ダメ、だ）
なけなしの理性をかき集める。しかし京香は顔を近づけきた。
「ふじ――」
柔らかな唇が言葉を奪った。と同時に舌が侵入してくる。口内を蹂躙するように嘗め回し、京香は少し顔を離して浅見の首筋や鎖骨に舌を立てた。
「あ……うう」
全身が熱く、燃えるようだ。なにより下腹部がざわめいていて辛い。
顔を離した京香が妖艶に微笑んでいる。そして両腕を背中に回したかと思えば、肩ひもが垂れてワンピースが緩んで落ちた。小ぶりだが形のいい乳房が露わになる。胸の尖りがツンと勃ち、京香が動くと乳房が揺れる。浅見はその様子に見入った。
「あっ！」
京香の手が股間に触れて煽ってくる。そしてベルトのバックルを外し、ズボンのファスナーを下ろした。
「浅見さん、我慢しなくていいのよ？」
ズボンとボクサーパンツを下ろされ、すでに膨れ上がっている雄を銜えられ――
浅見は完全に陥落した。
都内の高級ホテル、そのスイートルームに続く廊下を歩く浅見亮一はかなり緊張していた。呼び出した張本人が苦手であり、警戒すべき相手だからだ。
（いくらなんでも夫人と二人きりになるのはよくないんだが。しかも、こんな時間に）
とはいえ、宇條実康の代理人である身とすれば、その妻である宇條京香から呼び出されたら応じるしかない。
（あの人は苦手だ）
旧華族の流れをくむ家柄。いや、それ自体にはなんら問題はない。どこの誰でも、ルーツはある。そのルーツに固執し、不道徳に走らなければ。
金や権力に貪欲で見せびらかすような輩は得てして成り上がりで、真に良家と呼ばれる家柄はむしろ地味に努めて目立たず、しかしながらその立ち居振る舞いや言動は優雅で上品なものだ。
宇條京香は悪いほうに強く影響されている人間だった。宇條京香だけではない。彼女の実家、佐上家は、と言うべきだろう。彼らはまるで映画や小説に出てくる権力に縋りつくわかりやすい悪役のように、家柄を鼻にかけた人物たちだった。
（金がなくて宇條家に寄りかかろうとしているくせに、プライドだけは人一倍高い）
いかにその実家佐上家が政財界に顔がきこうが、浅見には関係のない話だ。ただその権威が宇條グループ、そして宇條ファミリーに牙をむくなら、たとえ妻や妻の実家であっても全力で戦い守るのだが。
部屋の前にやってきた。浅見がノックをすると、扉はすぐに開いた。
「いらっしゃい。どうぞ」
京香は顔だけ出してそう言うと、扉を開いた。
「失礼します」
部屋の中に入り、足を止めて振り返る。扉を閉めている京香は細い肩紐のマーメイドタイプのワンピース姿だ。ひざ下五センチくらいの長さで、足元は裸足だった。毛足の長い絨毯が敷かれているので裸足でもまったく問題はないが、黒光りする露出度の高いワンピース姿は、なんだか非常になまめかしく見え、浅見は顔をしかめた。
実康と結婚して二年。年は二十七歳。もう新婚でもないし、若気の至りでなんでも許される年齢でもない。よもや誘惑しようなど考えてはいないだろうが、いかに夫の部下とはいえ男と二人きりになるのにこんな姿で迎えるとはあまりに軽率だ。浅見は言葉通り一人で出向いてきたことを後悔した。
だが、美しい。
この女は偽りなく美しく、そしてそれを自覚し、自分の美貌が最大限威力を発揮するスタイルを熟知している。
浅見はさり気なく視線を逸らした。
「窓際の椅子に掛けてお待ちになって」
「…………」
言われる通り広いスイートルーム、そのメインルームの窓際に置かれている椅子に向かい、腰を下ろす。丸テーブルには空になったミネラルウォーターのボトルと、なみなみと注がれているワイングラス、そしてA４の茶封筒が置かれていた。
浅見は視線をズラし、テラス窓に向けた。東京の夜景が広がっている。キラキラと輝き、恋人となら最高の気分を味わえることだろう。
間もなく京香がやってきた。右手には丸テーブルに置かれているものと同じワイングラス、左手にはミネラルウォーターのボトルがある。京香は腰を下ろすと、ミネラルウォーターをワイングラスに注いだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます。それで、話とは？」
「ええ、そうね。でもまず、こんな時間に呼び出してごめんなさいね。そのことを謝るわ」
「お気になさらず。ですが、恐縮ですが、やることが山積でして」
「相変わらずお忙しいこと」
ふふふっと小首を傾げて笑う様子は小悪魔的だ。わずかに揺れるカールされた髪も、露出した肩や首元、胸の谷間も。それほど大きくないバストだが、彼女の場合大きすぎないことがより似合っていてエロティックに見える。
浅見はまたさり気なく視線を逸らせ、首元に手をやった。そして手を止める。
「どうかなさって？」
「いえ、なんでもありません」
無意識にネクタイを緩めそうになったのだ。その理由はすぐにわかった。
（暑いな。空調の利きすぎか？）
冬とはいえ、暑すぎやしないか――そう思って合点がいった。京香の衣装だ。肩ひものワンピース一枚では確かにこれくらいの温度が欲しいところだろう。アンダーにワイシャツ、スーツにネクタイの浅見とは体感温度はまったく違う。
浅見は丸テーブルのワイングラスに手を伸ばした。そしてそれを一口飲むと、冷たさが心地よくて続けて一気に飲み干した。グラスを置くと京香が新たに注いでくれる。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。では、本題に入りましょうか。宇條グループの総帥の息子、宇條実康の妻としてではなく、あなたの友人の宇條実康の妻としてお話したいのよ」
「どういう意味ですか？」
「言葉通りだわ。夫の友人を思ってのお節介よ。これ」
京香は置いてある茶封筒を手にし、中身を取り出して浅見の前に置いた。
「――――」
ファイルの表紙には『田中八重の調査報告書』とある。田中八重とは浅見が交際している女性の名前だ。
「御覧になって」
ファイルを手にして表紙をめくる。さらに次。さらに。何枚か捲ると写真が出てきた。
「――――」
八重が男と並んでホテルから出てくるところだ。ホテルといっても、一流ホテルやビジネスホテルではない。カップルが利用するものであることは一目瞭然だった。
「おつきあい、考え直されるべきとお伝えしたくてね」
「――――」
「大学在学中に司法試験に合格して、すぐに退学して司法事務所に勤められて。実績を積む傍ら、宇條グループの次期総帥の片腕として将来を嘱望されているから将来は安泰。ルックスもいいし、狙う女性は多いでしょうね」
浅見は全身から汗が噴き出してくるのを感じた。思考は暑いという言葉に占められ、考える余裕がなくなっている。
（暑い）
視線をファイルからテーブルに移すとワイングラスが見えた。反射的に手を伸ばし、飲む干す。京香はまた注いでくれた。浅見はそれも飲み干した。
「プライバシーに踏み込むのはよろしくないのでこれ以上は言わないわ。それはあなたが決めることだから」
耳は確かに京香の言葉を拾っているし、目は写真に写る恋人の姿を捉えている。男と並んで歩いている恋人の姿を。
（八重）
確かに最近忙しくて会えていない。だが、浮気をするような女性とは思えない。なにか事情があるのだろう。そうは思うが、浅見はそれ以上のことを考えられなかった。
体中が熱い。特に顔が。空調のせいかと思っていたが、違うようだった。汗が滴って止まらないし、やたらと喉が渇く。頭がぼうっとして意識が定まらない。
「あなた、浅見さん、どうかなさって？ 顔色が悪いわよ？」
「……いえ」
「いえ、じゃないわよ。汗がすごいわ。上着を脱いだら？ それにネクタイも」
「いえ、大丈夫です」
言葉が出てこない。目頭が痛いくらいに熱い。浅見は額を押さえた。確かに汗がひどい。拭おうと思ってジャケットのポケットに手を入れた。
（あ、あれ、ハンカチ）
ジャケットのポケットではなかったようだ。ズボンのポケット――そう思って立ち上がりかけて体がグラついた。
「危ない！」
大きな声がする。気づいたら京香がいつの間にか真横にいて、抱き着くようにして体を支えていた。
「あ……」
視覚が京香を捉える。白い肩、胸の谷間が見えて全身に戦慄が起こった。背筋にゾワリと妖しいものが走り、血液が下半身、股間に集まっていくのを感じる。そして抑えがたい衝動。
京香の肩に触れようとして目が合った。
（ダメだ、この人は実康の妻だ）
必死で理性をかき集める。親友であり上司であり恩人である宇條実康の妻という立場にあるだけで、浅見の好みでもなんでもない。むしろ苦手で近づきたくいないタイプだ。そんな女に欲情などするはずがない。
「本当に顔色が悪いわ。横になって休んだほうがいいわよ」
「い、いいえ……」
「ここはスイートルームだから部屋はいくつもあるわよ。さぁ、いらして」
腕を引っ張られ、浅見は立ち上がった。京香が言うように高級ホテルのスイートルームだ。部屋は全部で三つある。その一つを使わせてもらってもいいだろうか、という気持ちが起こり、彼女についていく。
整えられたベッドを見ると、早く横になりたいという衝動が起こった。と同時に目が回って足もとがふらつく。
「危ないわね。さぁ、横なって。あ、待って。先に上着を脱いで。ほら」
耳元で京香の高いが声がしてキンキンと響く。それがうるさくて煩わしい。
「ネクタイも取りましょう。苦しいでしょ？」
スルッとネクタイが抜かれる感触がする。京香がワイシャツの第一ボタンを外しているところだった。
「さぁ、横になって」
早く楽になりたい。そう思うばかりに従うと、視界いっぱいに京香の顔があることに気づいた。
（え）
京香が馬乗りになって顔を覗き込んでいる。
胸の谷間がなまめかしい。
「まだ苦しい？」
京香は言いつつワイシャツのボタンを全部外し始めた。ダメだ、そう言おうとして喉がつっかえた。彼女の指先がアンダーシャツ越しに触れ、敏感な胸の尖りをこすったのでビリビリと痺れた。
「あ……」
「どうかして？ もしかして、感じた？」
よせ、その言葉も出ない。
目が回り、汗がさらに噴き出し、股間の熱が高まる。
（ダメ、だ）
なけなしの理性をかき集める。しかし京香は顔を近づけきた。
「ふじ――」
柔らかな唇が言葉を奪った。と同時に舌が侵入してくる。口内を蹂躙するように嘗め回し、京香は少し顔を離して浅見の首筋や鎖骨に舌を立てた。
「あ……うう」
全身が熱く、燃えるようだ。なにより下腹部がざわめいていて辛い。
顔を離した京香が妖艶に微笑んでいる。そして両腕を背中に回したかと思えば、肩ひもが垂れてワンピースが緩んで落ちた。小ぶりだが形のいい乳房が露わになる。胸の尖りがツンと勃ち、京香が動くと乳房が揺れる。浅見はその様子に見入った。
「あっ！」
京香の手が股間に触れて煽ってくる。そしてベルトのバックルを外し、ズボンのファスナーを下ろした。
「浅見さん、我慢しなくていいのよ？」
ズボンとボクサーパンツを下ろされ、すでに膨れ上がっている雄を銜えられ――
浅見は完全に陥落した。
