私と貴方の秘密の一年間

緊張彼女と余裕教師

 こんな事があるだろうか。いや、さすがにない気がする。今までの人生で、こんなに嬉しくて、且つ焦った通学なんてなかった。

「さすがに悪目立ちしますよ、先生」
「お前が大きな声を出さなければ問題はなかった」
「そんな事はないです」

 私の通学中、踏切に飛び込もうとしていた先生を発見。咄嗟に大きな声を出して止めて、今は一緒に通学路を歩いている。
 今はまだ時間が早いから他の生徒はいない。合法的に許されている二人きり。生徒と教師だけど、今はただの恋人通しだ。

「はぁぁぁあ」
「そんなに死にたかったんですか?」
「それもあるけど…………。昨日のが見つかったのが痛かった…………」
「あぁ…………。綺麗な土下座でしたね…………」

 教頭先生に見つかった先生は、減給される事を恐れスライディング土下座を決めたんだったな。

「えっと…………。給料は…………?」
「……………………もう、落ちる事がないと思うと安心して自殺が出来るよ」
「土下座効果は今一つだったんですね、どんまいです」
「うるせぇよ。お前も原因の一つなんだからな、責任を取れよ」
「え、結婚ですか? 喜んで」
「違う」

 違いましたか、残念。

「まったく…………」
「あれ、先生って普段から煙草吸ってましたっけ?」
「ん? あぁ……まぁ……」

 あ、煙草を戻した。火を点ける前だったからすぐに戻す事が出来たのか。マスクも元の位置に戻しちゃった。綺麗な素顔を見る事が出来て嬉しかったのに、余計な事言ったなぁ。

「ところで、先生って普段から自殺しようとしているんですか?」
「……………………」

 あ、顔を逸らした。普段から自殺しようと考えてるなこの教師。
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