俺が、好きになっちゃダメ?
あれから、わたしは頭がうまく働かなくなり、何をしていたかも、何を食べていたかも、何を見ていたかも覚えていない。
気がつくと、修学旅行は終わって、わたしは飛行機から降りていて、無感情なまま家に帰った。
「ただいま……」
「おかえり、雫。どうしたの? 修学旅行、楽しくなかったの?」
自分でも、うつろな目をしていることが分かっている。
お母さんは、そんなわたしの目を見て瞬きを続けながら聞いてきた。
「た、楽しかったよ。……疲れただけ」
「そう、ゆっくり休んでなさい」
数日ぶりに、自分のベッドで横になった。
急に倒れた人のように、ベッドにいきなり体重をかけたので、体がバフンと弾んだ。
思わず、部屋の端っこにあるシェルフに目をやる。
そこにいつも引っ掛かってあるのは、玲とデートしている時にお気に入りでいつも肩にかけていた、猫のポシェット。
グレーの猫をモチーフにしたポシェット。グレーの猫。グレー……。
闇色の世界で、この猫のポシェットの色も、受け入れてくれる色だ。
今更、あんな子供っぽいデザインのポシェットを肩からかける訳にもいかないけれど、捨てる訳にもいかない。
だって、あれには玲との思い出が詰まっているのだから。
海に行く時だって、ちょっと遠いところへお出かけに行く時だって、いつも玲と手を繋いでいる時に、その猫はわたしの腰で揺れていたのだから。
玲と一緒にいる時は、あの猫のポシェットも一緒だったのだ。