俺が、好きになっちゃダメ?
「おーい、圭志!」
足元には、サッカーボールが転がっていた。
俺が蹴る間もなく、相手チームの奴に取られて、ボールはそいつとどんどん小さくなった。
「珍しいな、お前が試合の練習中にぼんやりしちまうなんて」
「なぎちゃん」
話しかけてきたのは、なぎちゃんこと胡桃 凪都だった。
なぎちゃんは、俺の幼なじみで幼稚園や学校の先生にも、そんなふうに呼ばれていて、俺も未だになぎちゃん呼びが抜けない。
「毛利、分かる?」
「それって、毛利 雫さんのこと?」
まあ、うちの学校に“毛利”という苗字の奴は他にいないから、すぐになぎちゃんも分かるんだな。
「そうそう」
「なんか、色々言われてたよな」
「え?」
「結構話題になってたんだよ、毛利さんと他校生のことについて」
……そうか。
俺らのところじゃなくて、毛利の話は別のクラスでも広まっていたのか。
そりゃあ、いつもおしとやかな奴が他校生に向かって激怒したら、誰だって驚くことには無理もない。
けれど、毛利からしたら憎まずにいられない存在だったから、あれくらい怒りが爆発するのも当然なんだ。