俺が、好きになっちゃダメ?
「……はぁ」
あれから、俺となぎちゃんは試合中に立ち止まって私語をしたということで先輩から説教をくらい、気がつけば帰る時間もいつもより遅くなっていた。
特に俺なんて、ぼんやりして相手にボールを取られたもんだから、そのことについても怒られた。まあ、試合中はよそ見しないで真剣にやるということは1年の頃にも言われていたし、言い訳できる立場でもないんだからひたすら謝っておいたけどさ。
それに、寄り道して帰るのが遅くなることなんて珍しくないから、母さんからメッセージは来ていないし。
俺は気付けば、自分の家からは少し離れた海を見ていた。
「木嶋くん」
不意に、誰かが俺をそう呼んだ。
首を動かすと、そこには毛利が立っていたのだ。
「あれ、毛利なんで?」
「ああ、ちょっとね。わたしの家からも、この海が見えるから」
毛利は、大切なものを見つめるかのように海を眺めて優しい表情をしていた。
「その、毛利……」
「うん?」
「こないだ、ごめん。あんな、つらいこと聞いて……」
毛利を見ると、長い黒髪が風になびいていて悲しそうな表情を少ししたけれど、すぐに首を横に振った。
「いいの。びっくりさせちゃったことは、本当だから」
そう言ってから、毛利はまた海へ視線を戻す。
「ねぇ」