俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 きっぱりと言い切った彼が、片手でネクタイを緩めそのままシュルっと引き抜いた。それを投げ捨てると、唇や耳、頬や首。ありとあらゆるところにキスを落としながら服を脱いでいく。

 本気をだしてきた。彼がふれるだけで体の芯がとろける。徐々に体中……そう毒が回るかの如くしびれ、彼のこと以外なにも考えられなくなる。

 大きな手の平が私の体を刺激する。徐々に汗ばんできた素肌が翻弄される。

 彼が一糸まとわぬ姿になってたときには、私はすでに心まで裸にされている気分だった。

 与えられた刺激に反応し、彼の求めに素直に応じて彼に体をゆだねた。そうして声も我慢できなくなって蕩けた私は、何度も彼に抱かれた。

 最初の宣言通り、この広いスイートルームの至るところで。お互い何も考えず互いを求める。

 そして最後にひとつになった広いベッドで、そのまま私は眠りについた。

 最後に彼の「おやすみ、いい夢を」という言葉を聞きながら。




 朝目覚めた私は、まだ眠る御杖さんを起こさないようにベッドから抜け出た。

 急いでリビングルームに脱ぎ捨ててあった服を身につけ、バッグから財布と取り出したときふと世の中の仕組みに文句が出た。
 昨日の飲み代も気がつけば彼が払っていた。それなのにこのホテル代まで出してもらうわけにはいかないと思い、財布の中を見て愕然とした。

 現金の持ち合わせが8530円。昨日のお酒の代金にもなっていない。

 キャッシュレスの時代を恨む。

 昨日散々自分は大人だ。ひとりでやっていけると言ったのに情けない。

 しかしそのままにしておくわけにはいかず、私はこのありったけの現金をダイニングテーブルに置き、近くにあったメモ用紙に「ありがとうございました」とだけ記して、そそくさとその部屋を出た。

 ばたんと扉が閉じた。そこにもたれかかり心の中でお礼を告げる。

 ありがとう。おかげで一晩中泣かずにすんだわ。

 ふぅと大きく息を吐いた後、私は顔をしっかりと上げてエレベーターに向かって歩き出した。




 人生の山や谷がいろいろあったところで、夜は明けて朝が来る。そして当たり前のごとく月曜がきて出社の時間だ。

 同じフロアにあの結婚式に出席していた人が何人もいる。あの後どうなったのか知らないが、自分のやったことを思うと気まずいと思う。

 いけない。あの日、嫌なことにはすべて蹴りをつけたはずじゃない。
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