俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 私は自分に発破をかけて、背筋を伸ばしてオフィスに向かった。

 案の定デスクに到着するまで、ひそひそ話と興味津々の視線が突き刺さる。もちろん覚悟の上だったが気にはなる。

 こういうときはさっさと仕事に取り掛かるに限る。私はパソコンを立ち上げると早速次期の企画書データを呼び出して作り始める。

 やっと企画部に異動になったんだもの。がんばらなきゃ。

 これまでレストランやカフェでの勤務をしていた。もちろんやりがいもあったし、接客の仕事も好きだった。けれど入社後からずっと企画に携わりたいと言い続けて、やっと今回企画部への異動が叶った。

 ちょうど情熱を注げる仕事が目の前にあってよかった――そう思いながらキーボードの上で指を走らせる。しかし集中する間もなく上司に声をかけられ、資料作りが中断する。

「飛鳥さん、ちょっといいかな?」

 上司が立ち上がりながら、ミーティングルームにちらっと視線を移す。どうやら込み入った話のようだ。すぐに立ち上がり彼の後を追った。

 すぐに椅子に座るように促される。上司と向かい合って座るや否や、一枚の書類を差し出される。

「辞令!?」

 思わず目を見開き、声を上げた。すぐに紙面から上司に視線を移す。

「そんな、この間やっと企画部に異動になったのに、何かの間違いじゃないんですか」

「あ、そうだよね。君の言いたいことはわかるんだが。君の成長につながるから」

 わずかに視線を逸らされる、彼もこの人事があまりにも突然だと理解しているようだ。

 もう一度内容を確認する。するとそこに〝出向〟の文字をみつけて余計に驚いた。

「こ、これどういうことですかっ?」

「あぁ、やっぱりそういう反応になるよね。本当は違う人が行く予定だったんだが、あの、ほら、君いろいろあったでしょ?」

 言いづらそうにちらちらこちらの反応を見ながら話をしている。

 あぁ、そういうことか。

 私の人事異動の本当の理由がわかった。おそらく先週末の結婚式でのことが影響しているらしい。

 それにしても対応が早くない?

 ふと吉野さんが、人事部長の姪だということを思い出した。近しい親戚らしく人事部長もちろんあの場にいたわけで……。

「はぁ、そうですか」

 反論する力も出ない。何もかも忘れて仕事に打ち込むつもりでいたのに……。いつまであの出来事が尾をひくのか、頭が痛くなる。

「ごめん、力がなくて」
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