俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 いきなりのことに、驚きそれ以上言葉が続かない。

「何って、忘れたのか? 土曜バーでしこたま酒時飲んで、その後上の部屋で俺とあちこちで抱き合っただろ、ソファ、ベッド、それから風呂でも――」

「あーーーーわぁあぁあぁ!!!」

 慌ててこれ以上何も言わないように、彼の口をふさいだ。

「なんだ、覚えてるんじゃん」

「それは! 最初に知らないふりしたの、あなたじゃない」

 最初まるきり無視していたのは向こうだ。

「覚えてるなら、話は早いな。この話、断ってくれ」

「はぁ?」

 いきなりのことに、思わず声をあげた。まさか冗談だろうと相手を見るがその目は真剣だ。

 しかし驚いている場合じゃない。そんな話「はいそうですか」と受け入れられるわけない。

「どういうことでしょうか? 私の経歴では使えないということですか?」

 これまでぐちゃぐちゃになっていた頭の中が、急に冷めていくのを感じた。

 本来は別の人が出向になる予定だった。代わりに来た私では力不足だと言われているのだと思うと冷静にならざるをえなかった。

 しかし他の事はともかく、仕事に関しては一切妥協をしなかった。それをそんなふうに思われて黙っていられない。

「もしかして、一度寝た相手とは仕事しない主義ですか?」

 これから上司になる相手に言う言葉ではない。しかしそれ以外考えられない。

「まさか、そんなこと言ってたら誰とも仕事できなくなる」

 それって、そういう相手が何人もいるってこと?

 なかば呆れながら、自分がそのひとりだという事実があるので強く言えない。しかも向こうからでなく、はっきりと自分の意思で抱かれたのだから。

「じゃあ、理由はなんですか?」

 はっきり言ってもらわなければ、納得できない。私は拳をぎゅっと握ってまっすぐに御杖さんを見た。

「君は、結婚に対してマイナスイメージを持ちすぎている」

「あっ……それは」

 先週末、結婚式でひとあばれした後、バーで散々愚痴を言った。

 そのときに〝結婚なんて〟という言葉を何度口にしただろうか。彼が私をここで働かせたくない理由としては納得できる。

 しかしここで引き下がれない。

「たしかに、今の私は結婚について前向きなイメージはありません。でもそれは自分の結婚についてそう思うだけで、決して人の幸せを祝福できないわけではないです。そこは誤解しないでください」

「なるほどな」
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