俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
 慶と付き合って二年目のホワイトデーにもらったお揃いのマグカップ。

 私の部屋で一緒に使っていたはずなのに、彼のものはもう何年も前に割れてなくなってしまっていた。

 嫌な思い出がぶり返してきそうなる。ものには罪がないからと思い使い続けてきたけれど、もう捨ててしまおう。明日はちょうどゴミの日だ。

 思い立った私は、ごみ袋を片手に部屋のあちこちを漁った。これからの私に必要のないものとはお別れする。

 ほんの少しの変化だが、心が妙に軽くなった。

 私自身もそうだと思いたい。私の未来に必要がないものがなくなっただけ。その空いたスペースに新しいものがやってくるのだ。

 その瞬間頭の中に御杖さんの顔が思い浮かんだ。

「いやいやいや、ないない」

 慌ててかき消そうとした後、ふと気になりタブレットを手にして検索する。御杖大輝とフルネームで検索をすると、社名を入れる前にすでに彼のデータがはじき出された。

 そんなに有名人なの?

 数多の経済誌や新聞、ファッション誌に至るまで彼の名前が出てきて驚く。

 その中でもヘイムダルホテルのリクルーター向けホームページに、彼のことが一番詳しく書いてあった。

 ヘイムダルホテル創始者の孫にあたる彼は、中学卒業と同時に渡米。海外でMBAを取り、ヘイムダルホテルの北米支社で副社長に就任。

「ふ、副社長?」

 年齢は確か今年で三十六歳だったはずだ。そう考えると随分若い歳で重要なポストに就いたようだ。いくら創業一族でもすごいとしか言いようがない。

 でもなんでそんな彼が、本店がある日本でブライダル事業などに携わっているのだろう。こんなことをいうべきではないのだろうが、事業としては彼がやってきた今までの仕事とはスケールが違う。

「うーん」

 気にしながら、ネットにあふれる情報を次々にみていくと真面目なビジネスの話よりも、彼の私生活の話題が出てきて気になり始める。

 噂になった女性たちを見て思わず「すごい」と声がもれた。女優に、モデル。私でも知っているような政財界の有名人の縁戚関係。

 いわゆる世間一般でいう高嶺の花たちが彼の歴代の女たちに並ぶ。

 その中に私も一応含まれることになるのか……いや、違うよね。

 彼女たちと私は全く違う。彼女たちは彼がきちんと向き合った相手。私はただ通り過ぎただけ。

 それなのに、一緒に仕事をすることになって彼だって気まずいだろう。
 あの日のことは決して後悔していない。だからこそ、彼に気まずい思いをさせてまでしがみついた仕事だ。

 迷惑をかけるわけにはいかない。その上彼にも役に立たなければすぐにリッチモンドに送り返すと言われている。

 やるしかない。やるしかないんだ。

 傷ついていても立ち止まるわけにはいかない。元カレの結婚式の日に、すべて忘れると決めた。だから前だけ見ていよう。

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